米国が金融緩和の「出口戦略」に向けて動き出したが、日本だけがアクセル全開で「異次元」の金融緩和を続けている。「それこそが、日本株がまだまだ世界的に魅力的な投資先であることの証左」と語るのは、海外投資のカリスマとして知られるグローバルリンクアドバイザーズ代表・戸松信博氏だ。今後の日本株の見通しについて、戸松氏が解説する。
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高らかに号砲を上げて始まったアベノミクス相場が、乱高下に見舞われている。しかし、日本株の上昇局面は、決してこんなものでは終わらない。
それは「異次元」の金融緩和が指し示している。実際、日本のマネタリーベース(通貨供給量)は急増しており、2012年末の138兆円から2014年末までに270兆円へと倍増する見通しだ。
これがどれほどの規模かというと、日本銀行が国債などを買い入れるペースは月額にして約7兆円で、現在、FRB(米連邦準備制度理事会)が実施している額にほぼ匹敵する。これを経済規模で比較すると、米国は日本の約3倍あるため、そのインパクトは日本の方が3倍大きいといえるだろう。
ましてや米国のQE3(量的金融緩和第3弾)は、FRBが「出口戦略」に向けて動き出したところだ。そうしたなか、アクセル全開の日銀の金融緩和は、世界でも突出した存在になろうとしているのである。
その結果、もたらされるのはさらなる円安だ。FRBが米国債の買い付けを減らせば国債価格は下落し、金利は上昇する。その一方で日銀は国債を買い支えるため、金利は上昇しにくい。日米の金利差が拡大すれば、より高い金利を求めてドル買い・円売りが進むことが予想される。
ただでさえ日本は、エネルギー関連の輸入が膨らんで貿易赤字に転じるなどファンダメンタルズが悪化しており、円安に拍車がかかることは想像に難くない。FRBが本格的にブレーキをかけ始めれば、おそらく1ドル=110円近辺まで円安が進むのではないかと見ている。
そうなれば「円安→株高」という流れが再び加速することは間違いない。少なくとも、日銀がアクセルを踏み続ける来年末までは日本株を強気に見ていいだろう。日経平均株価でいえば、2007年に記録した1万8000円超えはもちろん、2万円台を視野に入れた展開があってもおかしくない。
無論、株価はそう単純に動くものではない。日本株に最も大きな影響を及ぼすのは、やはり米国経済の動向だ。
なかでも浮沈を握るのが、米国の失業率である。7月末時点で7.4%まで低下したとはいえ、依然としてリーマン・ショック前と比べれば高い水準にある。FRBはゼロ金利解除の条件として、インフレ率が目標(2.0%)を達成し、失業率が6.5%に低下するまでという方針を示しているが、この水準ではゼロ金利解除はもちろん、量的緩和の縮小ももう少し長引くかもしれない。
それはすなわち現在のような「金融相場」が続くことを意味し、そこからさらなる株高を望むためには、米国が「業績相場」に転換できるかどうかにかかっている。
そこでカギを握るのが、米国の不動産市況の回復だ。米国の住宅価格動向を示す「ケース・シラー住宅価格指数」を見ると、昨年から順調な右肩上がりとなっている。不動産価格や株価が回復すると資産効果によって米国の個人消費の盛り上がりにつながる。それによって今年のクリスマス商戦が活気づくようだと、いよいよ業績相場に移行する可能性が高まってくるだろう。
そして、米国が業績相場入りすることで世界的な好景気につながっていけば、日本株をさらに後押しするのは間違いない。
※マネーポスト2013年秋号