ドル/円に大きく影響する実需取引
最近のドル/円動向を知るためには、いかにドル/円の実需取引が相場に影響しているかを知る必要があります。
ドル/円の転機は、2011年3月11日。この日、東日本大震災が発生しました。これにより、福島第1原子力発電所で大事故が発生し、国内すべての原発が稼働停止へ。その代替エネルギーとして、大量輸入されたのが液化天然ガスです。
輸入は海外から原材料や製品を買い入れること。輸入代金を支払うため、主にドルを購入する必要があります。
震災後、液化天然ガスを大量に輸入したため、輸入が輸出を上回り、2011年に貿易収支(輸出・輸入)は赤字へと転落しました。1965年から45年続いた貿易黒字の時代は終焉を迎え、日本は貿易赤字の時代に変貌を遂げたのです。
貿易赤字から「ジリジリストン」の相場へ
貿易赤字が為替相場に影響を与えたのは2012年の2月からで、相場の動き方としてはグイグイ勢いよく上がり、調整局面でも恒常的にドル買いが出るため、それ程下がらずに、また上昇を勢いづけるドル買いが出ました。
その間アベノミクスも始まったことによる米系ファンドのドル買いも手伝って、ドル高の勢いに弾みがつき、なんと2012年2月から2015年6月まででドル/円は50円弱も急騰しました。
しかし2014年7月からの原油価格の下落により、輸入額が激減すると状況が一変。ピーク時の2014年では12.8兆円だった貿易赤字が2015年には2.8兆円に。なんと1年で10兆円も貿易赤字が圧縮されました。
原油価格の下落がドル/円相場にはっきりと反映されてきたのが今年2016年の1月からで、相場の動き方も大幅な貿易赤字の時の「グイグイ上がって、調整はほどほど」とは違い、恒常的に輸出のドル売りが出ているため、「ジリジリ上がってストンと落ちる」という貿易黒字下での相場の動きに近くなってきています。
このまま行けば、貿易収支は黒字化するものと思われ、ドル/円の「ジリジリストン」の傾向は強まるものと思われます。
機関投資家の外物投資の為替リスク
このように、実需面においてドル安円高が進行することもありますが、それ以外にもドル/円への下げ圧力になる要因があります。ひとつには、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)を含む生保等の機関投資家の外物(そともの、外債・外国株)投資の為替リスクです。
彼らがここ2年の間に運用の配分を円債から、国内株や外債、外国株にシフトしました。それは円債で運用するマーケット参加者が多くなり、運用利回りが出なくなったためでした。機関投資家や銀行は運用配分を替え、外物にも大量の運用資金をシフトしたのです。
彼らはここ2年程、為替相場が円安気味だったことから、為替ヘッジ(為替リスクを回避・軽減するためにドル売りをする)を掛けずに投資していました。
それが今年に入り円高に振れ始めていることは、彼らにとって由々しい問題なわけで、ここからドル/円相場が下がれば下がるほど、出遅れにはなりますが、為替ヘッジのためのドル売りが出る恐れがあります。