投資

米系ファンドやソロス氏もドル売り 円高進行の可能性高い

 2011年の東日本大震災をきっかけに日本の貿易収支は赤字に転落したが、2014年7月からの原油価格の下落により貿易赤字は急激に縮小。そうした実需取引が為替相場にも大きく影響している。30年の経験を持つ為替のスペシャリストで、バーニャマーケットフォーカスト代表の水上紀行氏が、今後のドル/円相場について解説する。

米系ヘッジファンドもドル売り

米系ヘッジファンドもドル売り

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 原油価格の下落から、恒常的に輸出のドル売りが出ているため、「ジリジリ上がってストンと落ちる」という貿易黒字下での相場の動きに近くなってきています。このように実需面においてドル安円高が進行することもありますが、それ以外にもドル/円への下げ圧力になる要因があります。

 ひとつには、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)を含む生保等の機関投資家の外物(そともの、外債・外国株)投資の為替リスクです。

 彼らがここ2年の間に運用の配分を円債から、国内株や外債、外国株にシフトしました。それは円債で運用するマーケット参加者が多くなり、運用利回りが出なくなったためでした。機関投資家や銀行は運用配分を替え、外物にも大量の運用資金をシフトしたのです。

 彼らはここ2年程、為替相場が円安気味だったことから、為替ヘッジ(為替リスクを回避・軽減するためにドル売りをする)を掛けずに投資していました。

 それが今年に入り円高に振れ始めていることは、彼らにとって由々しい問題なわけで、ここからドル/円相場が下がれば下がるほど、出遅れにはなりますが、為替ヘッジのためのドル売りが出る恐れがあります。

 2つ目のドル/円の下げ要因は米系ファンドのスタンスです。米系ファンドは2012年10月から2013年5月までの、いわゆるアベノミクス相場に乗り、ドル/円の買いで大儲けしました。あの米系ファンドの象徴とも言えるジョージ・ソロス氏も、この時期ドル買いで10億ドル稼ぎ出したとのことです。さらに2014年10月から2015年6月でも、米系ファンドはドル買いで儲けたと聞いています。

 それが今年になり、米系ファンドに変化が現れました。1月末に日銀がマイナス金利導入を発表し、ドル/円は3円ほど上昇しましたが、翌営業日となる2月1日から、ドル/円が下落をはじめ、2月11日までに10円もの急落をしました。これを仕掛けたのは米系ファンドで、今までのドル買い先行のトレードから、一転してドル売り先行のトレードに移行したのです。

 本来、米系ファンドは国や地域の政策やシステムに矛盾があると、その矛盾を突いてくることを得意としています。つまり今回はGDPもマイナスであり、消費者物価指数も目標の2%に遠く及ばないことから、アベノミクスという政策への期待が失望に変質してきているものと見ています。彼らは既にその矛盾を突いてきている模様で、ジョージ・ソロス氏も売りで入ってきているようです。

 また、米系ファンドは結構日本について研究しており、ドル買いを抱えた機関投資家や銀行の現状についても、よく知っているものと思われます

 あと、つけ加えておきますと、主要輸出業種である自動車や電機の2016年度想定為替レートは、自動車が1ドル=117.45円、電機が1ドル=117.63円と、前年度よりは円高に想定してはいますが、市場実勢よりは円安期待気味となっており、会計上為替差損が出やすい想定レートとなっています。これらのもろもろの要因により、ドル/円については、潜在的なドル安円高進行の可能性が高いと見ています。

※マネーポスト2016年夏号

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