「いつからもらうと得か」――年金のもらい方について、常に議論となるのが、「繰り上げ」と「繰り下げ」受給だ。今年6月に公布された、年金制度改正法では、この点に大きな変更がある。
年金を繰り下げた場合、受給開始は66歳以降となり、1か月遅らせるごとに0.7%増額される。現在、繰り下げは最大70歳まで可能だが、2022年4月施行となる新ルールでは75歳まで可能になる。75歳まで繰り下げた場合の年金額は65歳受給開始より84%増える。65歳からの年金が月16万円だとすれば、75歳から受給すれば月29.4万円を受け取れるのだ。
だが“年金博士”こと社会保険労務士の北村庄吾氏は75歳繰り下げに批判的だ。
「現実的に75歳まで年金受給を待つ余裕のある人はわずかです。厚労省は84%増額を強調して『年金は65歳から』との固定観念を打ち壊し、支給開始年齢引き上げの布石にしたいのでしょう」
他の観点からも繰り下げには問題がある。月16万円の年金を75歳まで繰り下げても、男性の平均寿命82歳時点での受給総額は約2470万円で、65歳受給(約3264万円)と70歳受給(約3269万円)を下回る。75歳受給が70歳受給を総額で上回るには91歳まで生きる必要がある。
大幅増額に目を奪われ繰り下げ受給を望むと、損をする可能性が高い。
「家計に余裕があって繰り下げを望むなら、妻のみの繰り下げが選択肢になる。メインとなる夫の厚生年金を65歳からもらいつつ、妻の国民年金を増やせます」(北村氏)
※週刊ポスト2020年10月16・23日号