“コロナ禍”によって人々のライフスタイルが大きく変化した今、さまざまな業界に変革の波が押し寄せている。不動産業界を取り巻く環境もインバウンドやオフィス需要の減少などにより激変している。
そうしたポスト・コロナ時代の“New Normal”(ニューノーマル=新しい常識)が定着しつつある中、従来とまったく違ったビジネスモデルで不動産投資に挑戦している企業がある。ジャスダック上場企業のアジアゲートホールディングスだ。
「空き家問題」の解決が新たなビジネスチャンスに
アジアゲートホールディングスの主要事業は3つ。1つめは、ゴルフ場を中心としたリゾートの開発および運営、2つめは、住宅や商業施設といった収益不動産への投資である。そして、3つめが不動産コンサルティングとなるのだが、注目されるのは“空き家”や瑕疵物件といった、これまであまり投資対象とされてこなかった物件に特化したコンサルティングである点だ。アジアゲートホールディングス代表取締役社長の松沢淳氏は、その革新性について次のように説明する。
「平成30年の統計では、空き家は846万戸と過去最高の数字となるなど社会問題となっています。空き家とは、建築法上の再建築不可であったり、建物や土地が共有持分になっている、いわゆる法的瑕疵(かし)がある物件であることが多く、そのため、不動産市場では投資対象になりづらく、放置されるケースが後を絶ちません。
ですが、そのため物件価格は割安となっており、再生することができれば、平均的な不動産投資の利回りをはるかに上回る収益の達成も可能となります。つまり、そこにビジネスチャンスがあり、なおかつ、社会的な課題を解決するソリューションにもなっているのです」(松沢氏)
副業の不動産投資で年間1億円の利益を出す
この不動産コンサルティング事業の中核を担っているのは、グループ会社のNSアセットマネジメントだ。2015年8月に設立された気鋭のベンチャー企業だが、一般的な不動産会社とは設立の経緯も事業内容も一線を画している。代表取締役の藤山大二郎氏と取締役の薩摩賢幸氏は、不動産会社に勤務した経験がないという。
「創業者である私と薩摩は、いずれもサラリーマン時代から副業として不動産投資を手がけていました。私の場合、早くから独立志向があり、元手となる資金を作るため就職後まもなく株やFX(外国為替証拠金取引)などで投資をしていたのですが、会社の業務で不動産金融業界の顧客担当となったことがきっかけとなり、興味を覚えて不動産投資を始めたのです。市況が良かった影響もあったのですが、投資を開始して売却をうまく織り交ぜた事により、2年目には会社での年収の10倍近い利益を計上することができました」(藤山氏)
どんな投資をしていたのだろうか。
「基本的には、おもに地方のマンションやアパートの一棟買いです。土地勘のある地元を中心に、空室率の高いエリアでガラガラの物件を購入し、客付けのノウハウで満室にし、売却をして利益を出すというものです。不動産投資を開始して1年半年程度で合計8棟の取引をしました。9棟目に購入した新築アパート案件では、割安な都内の土地を自ら購入し、自分で割安な地場の工務店に依頼してアパートを建て、それを売却するという投資を行いました。不動産業界ではプロジェクトマネジメントと呼ばれている手法に近いものです。
このやり方だと、同じ新築アパートを購入するにしても、不動産会社から完成された建売物件を購入するよりも、だいたい1~2割程度安く建築することができるのです。実際私が都内に建築した新築アパートも、建築して1年たらずで売却しましたが、購入価格より高い金額で売却する事ができました。いわゆる手間や労力を自分でできる範囲で行う事で、不動産業者の中間マージンを省き割安に取得することができるわけです。こうした実体験を基にした投資経験を不動産セミナーなどで紹介しているうちに、参加者の方からコンサルティングを依頼されることが多くなり、会社の事業としてコンサルティングを提供しようと考えたのです」(藤山氏)
サラリーマン時代に法的瑕疵物件の取引を経験
実は、薩摩氏も似たような経緯を辿っているという。
「私は23歳から不動産投資を始めました。やはり独立したいという思いが強く、さまざまな投資をしてきました。その中で1件、法的瑕疵物件を購入したのです。茨城県のアパートの一室で、5万円で購入しました。なぜそんなに安かったのかというと、アパートの建っている土地が共有持分で、まるごと売却するには所有者全員の同意がないとできないという法的瑕疵物件だったのです。ちょうどその頃、そうした法的瑕疵物件に関心があり、投資してみようと思ったのです。
その茨城県のアパートの所有者は合計6人いたので、弁護士同伴で、1人1人に直接会って売却をしてもらいました。いわゆる示談交渉ですね。最初の購入から売却まで1年半かかりましたが、投資額は交通費や弁護士費用を含めて200万円以内で収まりました。そして、その物件は投資額の5倍近い金額で売れたのです」(薩摩氏)
交渉はスムーズに運んだのだろうか?
「概ね順調だったと言えると思います。印象的だったのは、所有者の方々は、ほぼ皆さん、かなり困っていたことです。アパート自体は古く、空室になっているため賃料収入はまったくなく、固定資産税だけは毎年支払わなければならないという状態が続いていたからです。不動産会社に相談をしても、100万円をもらっても買わないと断られたそうです。売却をお願いすると、感謝して頂きました」(薩摩氏)
不動産投資の可視化を実現した透明性の高いコンサルティング
薩摩氏も、サラリーマン時代から、セミナーなどで自身の不動産投資の経験を紹介していたところ、コンサルティングの依頼を多数受けていたという。そして、不動産投資の勉強会などでもともと知り合いだった藤山氏と薩摩氏は、一緒に不動産コンサルティング専門の会社を設立することになる。それがNSアセットマネジメントだ。
「これまでさまざまなセミナーを見てきた経験から言うと、不動産投資をしている個人投資家の内、およそ8割は失敗していると思います。何が原因なのか。不動産投資を成功させるには、資金力や行動力などが必要ですが、やはり最も重要なのは知識です。知識がなく、不動産会社から勧められる物件に投資をしていては、いつまで経っても成功はしないでしょう。不動産会社の利益があらかじめ差し引かれているからです」(藤山氏)
「私たちは、不動産会社が手がけない法的瑕疵物件を投資対象とすることで、従来の投資では期待できない収益を追求しています。そのノウハウとサポートまでをパッケージにしたコンサルティングを提供しているのです」(薩摩氏)
前出・松沢氏も、NSアセットマネジメントが展開する事業について、次のように評価している。
「彼ら(藤山氏と薩摩氏)がやっているのは、不動産投資の“可視化”です。本来、不動産投資にはかなりの知識と経験が必要で、個人投資家にはブラックボックスになっているものがたくさんあります。業者はそれを丁寧に説明する必要があるのですが、残念ながら、そうではないケースが散見されるのが現状です。
彼らは、不動産投資に関してはもともと素人。自分たちで勉強をして、成功するノウハウを身に付けてきたという強みがあります。そのため、個人投資家と同じ目線でコンサルティングができるのです。これが、既存のセミナーとは最も違うところであり、New Normalと言える点ではないでしょうか」(松沢氏)
NSアセットマネジメントのサービスの1つに、「Re:Camp オンラインサロン」というものがある。会員限定のコミュニティで、会員同士が自由に情報交換をできる場となっている。不動産投資のビギナーが、すでに成功を収めているベテランに直接質問をすることも可能だ。会員同士の情報交換というものは、クレームに発展する可能性もあるだけに、通常、不動産会社ではこうした場は設置しない。NSアセットマネジメントのコンサルティングの透明性を表しているサービスといえるだろう。
3回目では、実際の取引事例を交えつつ、コンサルティングの具体的な中身に迫っていく。