「定年の崩壊」が近づいている。来年4月に「70歳就業法」と呼ばれる改正高年齢者雇用安定法が施行され、現在は65歳までの継続雇用制度を70歳に引き上げるか、「70歳定年制」の導入、「定年廃止」など、社員が70歳まで働き続けることができる仕組みをつくる努力義務が事業主に課せられる。
かつてサラリーマンにとって定年は退職する年齢だった。日本企業の8割近くは現在も「60歳定年」制をとっているが、定年後の雇用延長期間が10年(70歳)へと延ばされて「人生50年間勤務」が当たり前の時代になれば、定年の60歳は長い会社人生の「退職金をもらって給料が下がる日」にすぎなくなる。それが定年と退職が完全に切り離される「定年の崩壊」だ。
その先には75歳までのさらなる雇用年齢引き上げが控えている。政府は「日本の高齢者は10歳若返っている」と今後も生涯現役社会に対応した雇用制度改革を進めていく方針で、「高齢者」の定義そのものを75歳まで引き上げる議論さえある──。
今年12月に60歳の定年を迎えるA氏は迷っている。雇用延長で70歳まで働くべきかどうか。
30代の頃にバブル崩壊で勤めていた会社が倒産、大手メーカーの流通子会社に転職して25年懸命に働いてきた。ストレスで体を壊したことは何度もある。
「人生100年と言われるけれども、80歳になる頃に元気でいる自信はない。あと5年、65歳までは雇用延長で会社に残るつもりですが、その先の15年くらいは趣味の車いじりとか、これまでとは違う人生を楽しみたい。働くだけの人生はもういいというのが正直なところです」(A氏)