ステイホーム生活まっただ中のいま、妻たちのため息が日本中に響き渡っている。都内に住む専業主婦の西村信子さん(54才・仮名)が嘆きながらこう話す。
「在宅勤務が定着した夫は常に家にいて、昼食は自動的に出てくるものだと思っています。当然“作ろうか?”の一言はなく、それどころか牛乳パックは空になっても冷蔵庫に入れっぱなしだし、食べ終わった食器もテーブルに置いたまま。そのうえ、これまでのように毎晩飲み歩く生活ができなくなり、ほかに趣味もないから勤務時間が終われば毎日テレビの前でゴロゴロするだけの日々。
これまではっきりイメージできなかった夫の“定年後の姿”がありありと目の前に現れ、こんなにも憂鬱なのか、と戸惑いを隠せません」
会社に出かけて行き、別々に過ごしていたからこそ覆い隠されていた夫の“本当の姿”に直面し、当惑する妻が増えているのだ。
その乖離に耐えきれず、別れを選ぼうとする夫婦も多い。夫婦問題研究家の岡野あつこさんが言う。
「大手企業がリモートワークを導入し始めた2020年3月頃から、離婚の相談件数は、1年前の同時期よりも3割増しになっています。統計上、例年に比べると離婚件数そのものは減っている。しかし、自粛生活において離婚届の提出を瀬戸際で思いとどまっているだけで、“予備軍”は増えているというのが離婚カウンセリング現場の実感です」
とはいえ、この“夫が家にいる”という状況は、遅かれ早かれどの夫婦にも定年とともに平等にやって来る。裏を返せばステイホームを逆手に取って、これから長く続くであろう第二の人生のために、いまから夫を教育するという選択肢もある。
『定年ちいぱっぱ 二人はツライよ』(毎日新聞出版)の著者でエッセイストの小川有里さんはこう話す。
「20年以上にわたっていろいろな夫婦に取材してきましたが『定年後、夫が家にいてうれしい』という妻を、ただの1人も見聞きしたことがありません。聞くのは夫の悪口ばかり。しかし話を聞いていくと、妻たちにも原因がある。陰で悪口は言うけれど、夫本人にはこうしてほしいという自分の気持ちを話さないのです。それでは家事の負担は一向に減らず、一生家政婦で終わってしまう。夫と過ごす第二の人生において自由な時間を勝ち取るためにも、“食うか食われるか”の覚悟で自立を促すべきなのです」
※女性セブン2021年2月18・25日号