【あのIFAに会いたい 宗正彰の「資産運用業界」探訪/第7回】
ゲスト/IFA法人エチュード株式会社
代表取締役 吉住 俊彦氏
ホスト/三井住友DSアセットマネジメント株式会社
オンラインマーケティング部長 宗正 彰氏
IFAとは、特定の金融機関に属さず、中立的な立場で資産運用のアドバイスを行うプロフェッショナルのこと。名称は「Independent Financial Advisor」(独立系フィナンシャルアドバイザー)の略で、すでに欧米では、資産運用において非常に身近な存在だ。
日本でも昨今、知名度が高まりつつあり、IFAを介した資産運用が広まっている。そこでIFAへの理解を深めるべく、業界のリーダーをゲストに迎え、三井住友DSアセットマネジメント オンラインマーケティング部長・宗正彰氏をホストとして対談を行った。
IFAビジネスとの出会いは証券会社時代の米国研修
1986年日興證券(現SMBC日興証券)入社。以降、本社組織、個人営業、法人営業(公益法人、上場法人、金融法人含む)、投資開発部、株式トレーディング専門部署等を経験。本店営業部長はじめ6部支店長を歴任。2018年3月SMBC日興証券を退社後、これまでの経験を活かし、IFA法人エチュード株式会社を創業。株式市場分析、金利・為替市場分析に定評あり。株式をコアとした資産形成アドバイスに強み(独自の銘柄発掘、トレード手法)。法人(中堅企業他、学校法人、財団法人等)の資金運用、管理に精通。
宗正:第7回目のゲストは、IFA法人エチュード株式会社の吉住代表取締役です。証券会社における長年の経験で培われた、豊富な経験を基に、個人から法人まで様々なお客様に親身なアドバイスを行っておられます。まずは、ご自身がIFAビジネスにご関心を抱かれたきっかけをお聞かせください。
吉住:私は1986年に当時の日興證券(現:SMBC日興証券)に入社し、個人営業や法人営業、トレーディング等様々な業務に従事してきました。今から30年近く前ですが、金融先進国である米国への選抜研修に参加する機会がありました。その研修でニューヨークの金融機関をいくつか訪れた際、そこで活躍するIFAの存在を知り、そのビジネスモデルに感銘を受けました。個室のブースで、IFAが顧客一人ひとりに合わせた資産運用コンサルティングを行っている様子を目の当たりにし、証券会社主導で特定の商品を販売する当時の日本の証券ビジネスとの違いに、強い衝撃を受けたことを覚えています。
宗正:非常に早い段階で米国金融業界のIFAという存在を知った事は、後の証券マンとしてのスタンスにも大きく影響したことと思います。実際、その頃の日本の金融業界はまだまだ顧客本位とは言い難い状況でしたが、当時の日興證券は、国内の大手証券会社の中で、最も早くIFAビジネスに取り組んでいましたよね。
吉住:2000年には、日興證券内にIFAビジネスの前身となる部署が作られました。中には、そのタイミングでIFAを目指した同僚もいました。私自身は、当時そこまでの決断はできませんでした。しかし、証券会社でキャリアを重ねる中でも、IFAというビジネスモデルを実践して、真に顧客のために役立ちたいという思いは絶えずありました。
自分の考えを貫くことで結果として会社に貢献した支店長時代
中央三井信託銀行(現在の三井住友信託銀行)にて、「運用企画/ファンドマネージャー/株式アナリスト」を歴任。上場企業の経営戦略担当取締役を経て2008年に当社入社。大手運用会社初の投信直販事業やブランドマーケティング戦略など、特にオンラインを駆使した「業界初」のビジネスモデルを次々と構築。現職ではIFA法人をはじめオンライン証券やネット銀行など、次世代の投信チャネルを統括。テレビやラジオなどのメディア出演および各種イベント登壇の際には『宗さま』の愛称で親しまれるなど、資産運用業界では異彩を放つ存在。最近は「withコロナ/afterコロナ」時代の新たなデジタル戦略を積極展開中。
三井住友DSアセットマネジメント「ユアみらいネット」
宗正:吉住代表は、証券会社時代に支店長や営業部門の部長というマネジメント職も歴任されています。会社がいち早くIFAビジネスに取り組んでいたとはいえ、当時は他社との競争も激しく、支店長となると、営業の数字も強く要求される立場だったかと思います。証券会社の社員という立場でIFAと同様のサービスを提供するというのは、なかなか難しかったのではないでしょうか。
吉住:おっしゃる通りです。私個人で顧客本位の営業スタイルを実現するだけでなく、支店全体を管理する立場ですから、厳しい営業目標を課せられた中で実現する事はそう簡単ではありませんでした。ただ、元々私は、自分で納得できない商品をお客様に対してセールスすることができない性格です。本部から推奨される商品や営業方針をそのまま実行するのではなく、しっかりと自分で各商品の特徴や見通し等を分析した上で、本当にお客様に勧めたいと思ったものを、支店全体で展開していきました。もちろん、きちんと目に見える「数字」という結果で応えられていたため、本部からの特段の指示もありませんでした。
宗正:なるほど。吉住代表の顧客本位の営業スタイルへの強い信念が伝わるエピソードです。これまでの慣習が強く残る当時の日本の証券会社で、新しいスタイルを浸透させていく事は並大抵の努力では出来ませんが、実際に結果が伴っていたことで、周りを納得させられたのですね。ところで、当時吉住代表が特に良いと思ったのは、どのような商品だったのですか。
吉住:私が当時特に力を入れて手がけた商品は「グローバル・リート」に投資する投資信託です。それは2004年に国内で初めて公募でグローバル・リートに投資するファンドだったと、記憶しています。これを、支店全体で展開していきました。支店長として複数の支店のマネジメントを経験しましたが、他の支店に異動しても同様の取り組みを継続していました。私は、グローバル・リートの特性や市場見通しを徹底的に分析しましたし、何度も運用会社を招いて勉強会を重ね、詳細データや専門的なことまでも納得がいくまで質問するなどしました。運用会社の方にはずいぶんお手数をおかけしましたね(笑)。そのうえで、どう資産形成に役立つのかを訴求し、ニーズに合うお客様へ提案しました。その結果、全社で表彰されるほど数字を残すことにもつながりました。そして何よりも、多くのお客様に期待以上の投資成果がもたらされて、喜んでもらえたことが、本当に嬉しかったですね。
宗正:その後、2018年までSMBC日興証券に在籍され、退職された後すぐにIFA法人エチュードを設立されたわけですが、独立に踏み切られたきっかけは何でしょうか。
吉住:近年、証券会社のビジネスモデルも変わってきました。金融庁も、金融機関に対し、いわゆる「フィデューシャリー・デューティー」を果たすことを求めています。フィデューシャリー・デューティーとは、資産運用の業務に携わる金融機関が投資家に対して負う責任のことで、金融機関は、顧客本位の商品開発や運用、販売を適切に行わなければなりません。それに伴い、証券会社も変革しつつあるのですが、さまざまな業務コストが重くのしかかる大手証券ほど、変革のピッチは上がりにくい状況です。その一方で、次第に国内のIFAの認知度は上がり、活躍する人が大勢出てきました。そうした中、私も米国研修をきっかけにIFAという存在を知って以来、いつかIFAとしてキャリアを築きたいという思いは、常に持っていました。そうした中、証券会社でのキャリアも一段落した頃、社内で早期退職制度の募集がありました。それをIFAとして理想のビジネスモデルを実践するチャンスだと考え、長年証券会社で培った経験、知識、投資スキル、ネットワーク等を活かし、お客様のパートナーとしてお役に立とうとの思いで、2018年に独立起業いたしました。
宗正:私も様々なIFAの方とお会いする機会がありますが、吉住代表ほどマネジメント含めて証券会社で長いキャリアをお持ちの方は、非常に少ないです。ご経験を活かした質の高いサービスをご提供されていると改めて感じます。
証券会社での30年以上のキャリアを活かして骨太のコンサルティングを提供
宗正:御社のお客様に対するコンサルティングの強みについて、具体的に教えて頂けますか。
吉住:まずIFAは、資産運用のプロフェッショナルとしての専門性が求められます。私は、30年以上のキャリアの中で、あらゆる相場環境で運用の提案をしてきました。同時に、様々な部署を経験してきたことで、個人や法人の多種多様なニーズにお応えしてきました。こうした経験は大変貴重なものだと思っています。そうした経験をお客様への具体的なアドバイスに生かせるのが、弊社としての大きな強みではないでしょうか。また、IFAは資産運用だけでなく、例えば、相続や贈与、保険、事業承継といった相談も寄せられます。そういった場面では、証券会社時代に培ったネットワークも役立ちます。運用会社やストラテジスト、税理士、監査法人など、多くの専門家とのネットワークを活用して、お客様の持つ様々な課題に対処できる点も、強みになっていると思います。
宗正:入口は資産運用であっても、お客様との関係が深化するにつれ、お客様の人生に関わる様々な相談を受けられます。そこに信頼できるネットワークがあれば、お客様もさらに安心した相談ができると思います。続いて御社の資産運用について、具体的な運用スタイルをお聞かせください。
吉住:弊社の資産運用における基本は、「コア・サテライト戦略」です。ポートフォリオを組む際に有効な考え方の一つで、ポートフォリオを「攻め」と「守り」に明確に分割して効率的に運用する投資戦略です。これは運用資産を大きく2つに分けて、中心的な部分「コア(核)」では、長期的視点にたった安定的な成長・運用成果を図る一方で、リスク許容度に合わせて比率は変わりますが、残りの一部資金「サテライト(衛星)」では、比較的高いリターンを目指して積極的に運用をする仕組みとなっています。コア・サテライト戦略は、今では定着しつつある運用戦略であり、取り入れているIFA法人や販売会社は少なくありません。ただし、同じ「コア・サテライト戦略」でも中身を見ると、コア部分は低コストのインデックスファンドを組み合わせ、サテライト部分にいくつかアクティブファンドを入れているだけのポートフォリオが散見されます。また、その後の継続フォローが十分されているケースは多くはないと感じています。
宗正:「コア・サテライト戦略」を本当の意味で実現出来ているか、なかなか一般のお客様には分かり辛い点ですよね。吉住代表は戦略の効果を高めるために、どのような工夫をされているのでしょうか。
吉住:投資の成果は、アセットアロケーション、つまりどの資産クラスをどう配分するかが決定的に重要であると言われています。ただ、それを具体的な個別商品で構成されるポートフォリオで機能させるには、投資信託など個別金融商品の品質が維持されているか、それが期待した動きになっているか等のチェックが大切です。単に個別の金融商品の当てっこではなく、ポートフォリオの中で想定の役割を果たしているか、マーケット環境や見通しも踏まえ確認していくことです。更にはお客様のライフイベントや事情も考慮し、運用状況のレビューをして、必要があればリバランス等の見直しを行っています。また、通常株式はサテライト資産と位置付けていますが、株式投資を中心に運用を希望されるお客様には、株式資産自体も「コアの株式資産」と「サテライトの株式資産」に分けて銘柄選択やポジション管理をアドバイスしています。私自身、株式はポートフォリオ全体のパフォーマンス向上に貢献してくれる、重要な資産だと捉えています。お客様それぞれのニーズに応じてコンサルティングを継続していく中で、コア・サテライト戦略をポートフォリオ・マネジメントのフレームワークとして活用しています。
宗正:なるほど。各資産の特性をとことん突き詰める吉住代表だからこそ、実現できる運用戦略ですね。
吉住:ご認識の通り、各資産間の相関関係をきちんと把握し、ポートフォリオに具体的に落とし込む作業は、相応の知識と経験が要求されます。さらに、お客様の資産状況やリスク許容度に照らし合わせながら、長期的な目線でポートフォリオを構築していくのは、高度な専門性が必要です。ポートフォリオをきちんと機能させるには、過去の経験だけでは限界があります。絶えず学習をして、少しでも有効なポートフォリオ管理ができるようにスキルアップしていかなければなりません。お客様のためにこれからも労を惜しまず、この姿勢は貫いて行くつもりです。
人材育成というIFA業界の課題への取り組み
宗正:日本では最近、以前とは比べ物にならない程IFA全体の裾野が拡大してきましたが、IFAひとりひとりのレベルアップを図ることは、業界全体の課題ですよね。
吉住:おっしゃる通りです。私自身証券会社時代に若手の研修を担当したこともあり、これからのIFA人材育成の必要性を強く感じています。金融業界で長く仕事をしてきた私にとっては、IFA人材育成も、社会に対する責務の1つであると思っています。弊社では、弊社の理念に共感して頂ける方で、IFAスキルを有している方がいれば、積極的に採用していきたいと考えています。
宗正:昨今の株価の上昇もあってか、20代、30代といった若い世代も含めて、改めて資産運用への関心が高まっています。これから運用を始めたい、あるいは、ご自身の資産運用について相談したいと思っている方々に、メッセージをお願いします。
吉住:日本の社会や経済環境が大きく変化した現在、ご自身で将来に備える必要性が以前に増して大きくなっています。ただ、あまり深刻に考えるのではなく、資産運用とは人生を豊かに生きるための手段である、という「前向きな動機」で取り組んで頂ければと思います。その中で弊社のようなIFAに相談頂く事で、不安を少しでも軽減し、人生を楽しむことに重点を置いて頂きたいです。私自身、少しでもそのお手伝いが出来れば、IFA業界に身を投じた甲斐があると思っています。
宗正:吉住代表、本日はどうもありがとうございました。
吉住:こちらこそ、ありがとうございました。
対談を終えて
社名の「エチュード(Etude)」は、美術の「下絵」、音楽の「練習曲」、繰り返す「学習」、演劇における「即興」を意味する。複数の意味を組み合わせると、いつもの笑顔の吉住代表がそこにいる。無類の知識欲と飽くなき探求心は、既に誰もが知るところ。趣味のジャズを聴きながらワインを傾けるそのひと時、彼を支えるパートナーは全てを包み込み全てを許してくれている。
(三井住友DSアセットマネジメント オンラインマーケティング部長 宗正彰)
IFA法人エチュード株式会社
金融商品仲介業者 関東財務局長(金仲)第840号
所属金融商品取引業者
(楽天証券株式会社)
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第195号
加入協会:日本証券業協会、一般社団法人金融先物取引業協会、日本商品先物取引協会、
一般社団法人第二種金融商品取引業協会、一般社団法人日本投資顧問業協会
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第399号
加入協会:一般社団法人投資信託協会、一般社団法人日本投資顧問業協会、一般社団法人第二種金融商品取引業協会