新型コロナウイルスの感染拡大はなかなか終息の気配が見えてこない。日本経済の先行きは不透明感が強まり、景気後退の長期化を予想する声も多くなっている。その結果、社会の様々な分野で大きな影響が出ており、それは個人の住宅事情にも及んでいる。雇用および所得環境の悪化で、住宅ローンのような長期の負債を抱えるリスクが、これまでよりも増大しているとみられるからだ。
コロナ禍による景気後退は長期化の兆し
新型コロナウイルス感染症の流行に起因する“コロナ禍”は、とりわけ経済に大きなダメージを与えている。2020年度の日本の国内総生産(GDP)は、実質ベースで前年比▲4.5%。これは、世界恐慌の再来といわれた2008年度の「リーマン・ショック」時の▲3.6%を上回り、記録が残る1956年度以降で最悪の落ち込みである。(※1)
2021年度に入って、経済は少しずつ回復しつつあるように見える。しかし、その動きは力強さに欠け、経済予測を行うシンクタンクの多くは、GDPがコロナ前の水準を回復するのは2022年度以降、さらに直近のピークである消費税率引き上げ前の2019年7-9月期に戻るのは2023年度と予想している。(※2)
また、憂慮すべき点として感染症の動向がある。ワクチン接種が進むことで、感染拡大を抑制する効果が期待されているが、変異株の出現などによって、ワクチン接種が進んだ国でも感染者数が再び増加に転じるケースが多発。当面、感染者数の動向によって、国内の経済活動が制限される場面が頻出することは想像に難くない。結局、景気が過去の水準を取り戻すまで、まだ相当な時間がかかるとみられる。
個人の所得は当面頭打ちか
景気後退の長期化は、確実に個人の雇用および所得環境を悪化させる。すでに、残業代の減少やボーナスの削減といった影響が出ているほか、2020年の完全失業率(平均)は2.8%と、リーマン・ショックの影響が出た2009年以来11年ぶりに上昇した。2021年に入ってからは、それを上回る数字が続いている。(※3)
実は、コロナ禍の前から、日本は所得がほとんど増えない国になっている。国税庁が毎年発表している『民間給与実態統計調査』によると、会社員の平均年収は、2009~2019年の10年間で5.9%しか増えていない。2000~2019年の20年間をみると、増えるどころか▲5.3%と減少しているのだ。その結果、平均賃金の国際比較では、主要先進国(G7)では最下位、経済協力開発機構(OECD)加盟国の中では35か国中22位に転落している。(※4)
日本人の所得が増えない要因としては、少子高齢化による社会保険料の負担率の上昇や、非正規雇用の増加など、様々なものが指摘されている。こうした要因は、今後簡単に解消されるようなものではなく、そこへコロナ禍による景気後退が重なる。したがって、当面、個人の所得を取り巻く環境は厳しく、これまでの実績から減少する可能性さえあることに留意すべきだろう。
「賃貸vs持ち家」論争の前提条件が崩壊
こうした経済動向を勘案すると、ライフプラン上、長期間の負債を背負うリスクはこれまでよりも大きくなっているといえる。戸建住宅の価格も上昇傾向の中、将来的に所得が増加していくことを前提にできない以上、長期の住宅ローンを借りることには、より慎重にならざるを得ない。
すでに、そのリスクは顕在化している。現在、借り入れ中の住宅ローンについて、金融機関への相談件数が急増しているのだ。(※5)現状、金融機関は返済方法の変更などで対応している模様だが、ローン利用者の厳しい雇用・所得環境が続けば、返済がさらに滞る可能性も出てくる。
住宅を巡っては、「持ち家と賃貸はどちらが有利か?」といった観点で論じられることが多い。しかし、そうした議論の前提には、世帯収入が安定的に増加していくという条件がある。それが不透明となっている現状では、従来のシミュレーションは有効性を失っているとも考えられる。ライフプランにおいては、よりリスクの少ない選択が求められるようになるのではないか。
テレワークの普及が住まい選びに大きく影響
では、これからの“ウィズ・コロナ”時代において、住まい選びは具体的にどうあるべきか。大きなポイントとなるのは、やはりテレワークの普及だろう。
東京都の『テレワーク実施率』調査によると、2021年に入って、緊急事態宣言期間中の都内企業のテレワーク実施率は全体の60%前後で推移している。2020年3月が24%だったので、多くの企業が導入したことになる。また、テレワークの実施回数をみると、約半数の企業が週3日以上実施しているという。(※6)
このデータだけをみると、テレワークが定着しつつあると考えられるが、あくまで現在のコロナ禍での数字であることを理解しておきたい。コロナの感染拡大が終息した後、テレワークを減らす企業が出てくる可能性もある。コロナの終息が見通せない以上、企業もワークスタイルを決めかねているのが実情だ。
しかし、そうした不透明な状況が重なれば重なるほど、住まいは柔軟に考える必要がある。先のテレワーク実施率調査では、ほぼ完全テレワークに近い「週5日テレワーク」という企業が約20%ある。(※6)そうした企業に勤めている人であれば、会社への通勤時間という条件は、住まい選びから除外しても構わないのではないか。当然、都心に比べて郊外の方が、同じ家賃であれば広い物件を借りることができるケースが多いため、テレワークも快適になるはずだ。
ただし、今はテレワークをしていても、異動や転職などに伴い、ある程度の出勤をする必要が出てくるかもしれない。その場合、賃貸に住んでいれば、住み替えもスムーズにできる。こうしたライフスタイルの激変期には、住まい選びは賃貸が基本になるのではないか。
引っ越し時のコストが低いUR賃貸住宅の魅力
独立行政法人都市再生機構(UR都市機構/以下UR)が管理するUR賃貸住宅は、すでに昨年から、テレワークが主体となった人を中心に、多くの物件が注目されはじめている。UR賃貸住宅には郊外の物件も多く、そうした物件の多くは、都心中心部の物件より家賃がリーズナブルで間取りも格段に広い。ほとんどの建物はRC造やSRC造で建てられているため、耐震性や防音性の高さも期待できる。テレワーク主体の人には大きなメリットになるだろう。
しかも、部屋をDIYでリノベーションができる「UR-DIY」(『原状回復義務』免除。要手続き)という物件もあり、入居者のライフスタイルや家族構成に合わせてテレワークスペースや子ども部屋の確保も可能。敷地内に緑や公園が整備されている物件も多く、歩道と車道を交わらないようにする「歩車分離」により小さな子どもがいても安心なほか、テレワーク中の気分転換にも役立つだろう。
加えて、一般的な賃貸住宅と比較して、コストが低いのも大きなメリットだ。賃貸住宅では、家賃と敷金以外に、礼金や仲介手数料、保証料などがかかるケースがほとんど。しかし、UR賃貸住宅の場合、入居時に必要なのは敷金と日割り家賃、日割り共益費だけ。一般的な賃貸住宅の礼金を家賃約2か月分、仲介手数料を約1か月分、保証料を約1か月分とすると、家賃10万円の物件であれば、URの物件は入居時の費用は約40万円安くなる。通常なら2年に1回支払わなければならない更新料も不要だ。
加えて、満18歳未満の子どもを扶養している世帯や、契約者が35歳以下の世帯だと家賃がお得になる制度(「そのママ割」「子育て割」や「U35割」など)や、UR賃貸住宅をセカンドハウスとして利用できる「マルチハビテーション(セカンドハウス)制度」があり、例えば、これまで住んでいた通勤先に近い都心の住宅とは別に、週末ゆっくり過ごすために郊外に新しく部屋を借りることも可能。さらに単身者同士で同居できる「ハウスシェアリング制度」もある。ワークスタイルや勤務地の変更、家族構成の変化などに応じて、コストをかけることなく住み替えができる制度が整っているといえる。
住まい選びというと、「持ち家か賃貸か」という議論になりやすい。しかし、これから先、少なくとも数年は、ライフスタイルがある程度固まるまで、住まいの選択肢は豊富に持っておきたい。ライフプランを考える上では、リスクの回避を優先すべき時期ではないだろうか。
※2ニッセイ基礎研究所『2021・2022年度経済見通し(21年8月)』
※3総務省統計局『令和2年 労働力調査年報』
※4国税庁『民間給与実態統計調査』
経済協力開発機構(OECD)『平均賃金 (Average wage)』
※5住宅金融支援機構『新型コロナウイルス感染症に係る返済方法変更の承認実績(令和2年度末)』
※6東京都『テレワーク実施率』調査