遺産は子供や両親、兄弟姉妹などの家族に相続されるのが基本だが、身寄りのない人の遺産はどのように扱われるのだろうか。また、近親者以外に遺産を遺したい場合、どういった手続きが必要となるか。弁護士の竹下正己氏が実際の相談に回答する形で解説する。
【相談】
身寄りナシの孤独な老人です。明日、ポックリ逝くかわからず、心配なのは若いころに建てた都内の一軒家のこと。預貯金はありませんが、この家を親しくしてくれた誰かに遺贈したいと願っています。自宅を他者に遺贈したい場合、どのような手続きが必要で、気をつけなければいけないことは何ですか。
【回答】
法定相続人がいないと、家庭裁判所が選任する相続財産管理人が遺産を処分し、生前の債務を清算の上、生計を同じくした人や療養看護に努めた人など(特別縁故者)の申し出で家庭裁判所が残余の全部、または一部を分け、残りは国庫に帰属します。
債権者や特別縁故者がおらず、遺産の不動産に関心を持つ人もいなければ、相続財産管理人も選任されずに、遺産は放置されます。こうした事態は、遺産を特定の人や団体に与える遺言を作れば、回避できます。これが遺贈です。
まず、自宅を与える相手(受遺者)を決めてください。ただ、受遺者は遺贈を放棄できます。なので、事前に遺贈を受ける意思の確認が不可欠です。また、不動産の遺贈の実現には、登記が必要となります。登記は相続人と受遺者の共同申請で行ないますが、法定相続人がいないので、遺言執行者の選任が不可欠。なぜなら、遺言執行者が遺言書に基づき移転登記をすることで、遺贈は実現するからです。この点、遺言で受遺者を遺言執行者に選任しておくと、円滑に手続きができます。ただし、受遺者の手元に遺言書がなければ、登記はできません。