自宅の庭で大切に育てているものがたびたび盗まれるのだけど、犯人は特定できていない──そんな被害にあってしまった場合、どう対処すればいいのか。実際の法律相談に回答する形で、弁護士の竹下正己氏が解説する。
【相談】
うちの庭には立派なレモンの木があります。大切にしていて、毎年たくさん実がなるのですが、木が塀のそばにあるせいか、勝手に実をもいでいく人がいます。これまでは見逃していましたが、最近は大量に盗む人がいるので怒りがおさまりません。犯人は特定できていませんが、警察に通報したら捕まえてもらえるのでしょうか。対処法を教えてください。(広島県・60才・主婦)
【回答】
レモンの実があなたの物であるのは当たり前ですが、法的には次のように裏付けられます。レモンの木になる実は、木になっている間は、木の一部として木の所有権の対象になりますから、木の持ち主に帰属します。木からもぎとられたときは、民法の「天然果実は、その元物から分離する時に、これを収取する権利を有する者に帰属する」との規定に基づき、刈り取る権利がある人の所有になります。
この収取する権利がある人とは、通常の場合、木の所有者です。要するに、あなたの家の庭に生育するレモンの木になる実は、もぎとられる前も後もあなたの所有する物ということになります。
庭にあるレモンの木ですから、あなたが管理して占有している木です。そこからあなたの所有物であるレモンの実をもいで持っていってしまえば、「他人の財物を窃取した者」として刑法235条の窃盗の罪を犯したことになり、10年以下の懲役または50万円以下の罰金で処罰される重罪です。したがって、警察に訴えることは理にかなった対応です。
しかし実際のところ、警察が見張って捕まえてくれるかどうかはなんとも言えません。農家のように、生業として果樹を生育し、果実を生産している人が窃盗に遭えば、生産者の経済生活に重大な影響を及ぼしかねないことですから、その被害は軽視できません。社会的影響も考慮し、再発防止の観点からも、犯人捜査に力を注ぐと思いますが、庭先の果物の実が盗まれたというだけでは疑問です。