人は常に合理的な行動をとるとは限らず、時に説明のつかない行動に出るもの。そんな“ありのままの人間”が動かす経済や金融の実態を読み解くのが「行動経済学」だ。今起きている旬なニュースを切り取り、その背景や人々の心理を、行動経済学の第一人者である多摩大学特別招聘教授・真壁昭夫氏が解説するシリーズ「行動経済学で読み解く金融市場の今」。第35回は、ウクライナへの軍事侵攻で世界から孤立する道を選んだロシアのプーチン大統領の思考回路を推察する。
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ロシアによるウクライナ侵攻が続くなか、ロシアの主要銀行が国際的な銀行ネットワークであるSWIFT(国際銀行間通信協会)から外され、マクドナルドやアップルをはじめとした多くの外国企業が撤退するなど、ロシアの世界からの孤立が加速している。
国境を越えた取引が当たり前となり、安定的な成長を遂げてきたグローバル経済のなかで、国際社会が正当化できない軍事侵攻に踏み切れば、孤立することは分かっていたはずだ。グローバル化に背を向ける格好となってまで、なぜプーチン大統領は開戦に踏み切ったのか。
西側諸国と接するウクライナがNATO(北大西洋条約機構)入りすることが断じて許せなかったなど、さまざまな見方が広まっているが、もう少し、頭の中を推察してみたい。以下はあくまで推測でしかないが、私が思うに2つの要素が考えられる。
一つは、ロシア人のメンタリティ。かつて司馬遼太郎は著書『ロシアについて 北方の原形』(文藝春秋)で、ロシア人について「外敵を異様におそれ」、「病的な外国への猜疑心」、「潜在的な征服欲」、「火器への異常信仰」を持つ──などと分析したが、過酷な自然環境に置かれるロシア人には今もそんなメンタリティが息づいているのではないだろうか。そして、そうしたメンタリティが凝縮されているのがソ連の最高指導者だったスターリンであり、プーチン大統領であるように思えてならない。
もう一つは、2024年に予定されるロシア大統領選だ。2000年の大統領就任以来、長年にわたって権力の座を欲しいままにしてきたプーチン大統領にとって、再選は至上命題である。そこに向けて何としても支持率を上げておく必要があったことは想像に難くない。仮にここで失脚するようなら、政治生命のみならず、それこそ自身の「命」の問題にもかかわりかねない。