大前研一「ビジネス新大陸」の歩き方

「悪いインフレ&円安」で日本の低迷は必至 問題の先送りも限界に

日本の凋落に歯止めをかけるにはどうすればよいか(イラスト/井川泰年)

日本の凋落に歯止めをかけるにはどうすればよいか(イラスト/井川泰年)

 4月に入って、食料品や日用品など様々なモノが値上がりしている。一方で日本の賃金は20年以上にわたってほとんど上がっていない状況だ。このままでは「悪いインフレ」に向かう可能性が高いと指摘するのは、経営コンサルタントの大前研一氏だ。今後の日本経済はどうなっていくのか、その背景には何があるのか、大前氏が解説する。

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 じわじわと物価が上がっている。2月の国内企業物価指数は前年同月比で9.3%上昇し、比較可能な1981年以降で最大の上げ幅となった。2月の消費者物価指数(生鮮食品を除く)も前年同月比で0.6%上昇した。ロシアのウクライナ侵攻に伴う原油や穀物などの世界的な値上がりによって、今後も物価高が進行するだろう。

 もともと私は、日本の場合「インフレは輸入される」と言ってきた。輸入している原材料の価格が上昇すれば、それは即、国内の物価に跳ね返るからだ。

 アメリカの2月の消費者物価指数は前年同月比で7.9%上昇し、前月に続いて約40年ぶりの高い伸び率となった。ユーロ圏の2月の消費者物価指数も前年度同月比で過去最大の5.8%だった。これから日本も物価上昇は避けられないと思う。

 一方、すでに本連載(『週刊ポスト』2021年12月17日号)で述べたように、日本の賃金は20年以上にわたってほとんど上がっていない。厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によると、日本の一般労働者の2020年の平均月給は30万7700円で、2001年から1900円増えたにすぎない。今後、原材料価格の上昇によって企業業績が悪化し、賃金が上がらないまま物価だけが上昇していくと、家計の負担が重くなってGDP(国内総生産)の6割を占める個人消費が減退し、経済活動が停滞する「悪いインフレ」に向かう可能性が高い。

 しかも、このところ円安が進行している。2021年4月は1ドル=109円前後だったが、1年後の今は122円前後(4月1日時点)だ。円安になると輸入コストが上がるので、さらなる物価上昇につながる。

 かてて加えてアメリカのFRB(連邦準備制度理事会)は、インフレを抑えるため、3月16日のFOMC(連邦公開市場委員会)で、ゼロ金利政策を解除して0.25%の利上げに踏み切ることを決めた。ECB(欧州中央銀行)もFRBに追随するだろう。となると、世界中の資金は金利が高い米欧に向かうから、日本が資金流出を止めるためには利上げしなければならない。

 ところが日本銀行はFRBやECBと異なり、長期金利を「0%程度」に誘導する異次元金融緩和を堅持する方針だ。2月には長期金利の上昇を抑え込むために10年物国債を0.25%の利回りで無制限に買い取る「指し値オペ」を実施した。長期金利が許容範囲の上限の0.25%以上に上がらないようにする公開市場操作である。その時は債券市場での10年物国債金利が0.25%より低かったので、応札額は0円だった。

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