『老後はひとり暮らしが幸せ』『ふたり老後もこれで幸せ』などの著書があり、大阪・門真を拠点に活動する医師・辻川覚志氏(つじかわ耳鼻咽喉科院長)は、自身の診療所を訪れるなどした人たちに生活満足度の調査を行なってきた。
「私の診療所に来た人など地域の60歳以上の男女1068人に健康意識や生活満足度についてのアンケート調査を行ないました。その結果、60代から90代までのすべての年代で『独居』の人の生活満足度が、家族と『同居』する人のそれよりも高かったのです。男女ともに、ひとり暮らしの人の生活満足度が夫婦ふたり暮らしでのそれを上回っていた。個人差の大きい話ですが、60代以降の夫婦生活を円満に送るには気をつけなくてはならない点が多いということです」
そんな辻川氏が最重要ポイントとして挙げるのも、「食の自立」だ。
「料理の習慣がなかった男性は、レトルトやインスタントに栄養補助食品を加えるような手間のかからないものを準備すればいい。妻が一切、手間がかからないようにするとよいでしょう。食の自立とは、後片付けまで含むのが理想です。食事を用意する際は、妻に食器洗いを任せないという点も留意しましょう。それぞれが、それぞれのことをやるのが基本です」
前述の辻川氏のアンケート調査では「トイレに行くだけなのに、夫が“どこに行くの?”と口を出してくる」といった妻の不満が多くあったという。
「自由度の高いことが生活の満足度につながります。女性からすると、夫が出勤した後の自分自身の時間がなくなると、心理的に窮屈になってしまうわけです。妻の行動に口出ししないことを心掛けるとよいでしょう」
住まいについても工夫があっていいという。作家・書誌学者で『定年後の作法』の著書がある林望氏が言う。
「どんなに仲がいい夫婦でも、大人同士の関係を保つには独立した空間、独立した時間を持つこと。私は適切な『息の間』を作ると表現していますが、男女で気温の感じ方も違って、男は暑がり、女は寒がる。感覚が違うのだから、同じ寝室で眠る必要もないんです。むしろ寝室が一緒だと不和のもとです。イビキや体臭があれば、相手の安眠を妨害することにもなる。
旅行も同じです。夫婦だから旅行も一緒がいいとは限らない。私は別行動で旅したほうがいいと思っているし、夫婦が交代で旅に出れば空き巣に入られる心配もない。保険会社が行なったアンケートによれば、夫の6割が定年後に夫婦で旅行したいと考えているのに対し、妻の7割は友達や娘と旅行をしたいと考えている。この意識の違いは非常に大きい。夫婦でも見たいものも違うし、食べたいものも違う。別々に料金が安い時に、行きたいところに行くほうが収まりがいいと思います」