検索履歴、閲覧履歴、「いいね」など、ネット上での行動が、ビッグデータとして蓄積され、さまざまな分野で利用されている。企業が効率的に広告を出すために利用することもあれば、犯罪に使われることもある。いわば、私たちは、インターネットの利便性と引き換えに「超監視社会」に閉じ込められてしまったのだ。監視者は、犯罪者や一部の企業だけではない。国家によるビッグデータを使った「選民」も始まっている。
先を行くのは中国だ。アリペイを運営するアリババなど、キャッシュレス決済を担う企業の大半は「信用スコア」を導入している。「信用」という曖昧なものを、AIとビッグデータによって数値化してしまったのだ。
例えばアリペイでは「身分特質(社会的地位・身分、年齢・学歴・職業など)」「履行能力(過去の支払い状況や資産など)」「信用歴史(クレジット・取引履歴など)」「人脈関係(交友関係及び相手の身分、信用状況など)」「行為偏好(消費の特徴や振り込みなど)」の5つの基準から算出した数値で5段階に分類され、信用スコアが高いと、雨傘の無料レンタルや金融ローンの金利優遇など、さまざまな特典が得られる。
一方、スコアが低い人はサービスから弾かれる。特に、生まれや育ちに関係する基準もあるため、生まれながらに恵まれた人はより恵まれ、不利な状況にある人はより不利になり、格差の拡大や差別の助長が懸念されている。
アメリカでも「信用スコア」が浸透している。一流大学の学生が、出身地や親の職業、一度面接に失敗した記録といった要素から何年も正社員になることができなかったり、信用スコアによって結婚を反対されたりするケースも出てきているという。
日本では、従来型のクレジットカードなどのスコアに加えて、みずほ銀行とソフトバンクの共同出資で設立した「J・Score」や、NTTドコモの「ドコモスコアリング」がその一例だ。慶應義塾大学大学院法務研究科教授の山本龍彦さんが説明する。
「返済能力の高い人の行動をAIに学習させ、それをもとに信頼度を測るシステムです。いまのところ、日本では銀行融資などの審査に限定して使われていますが、これが採用試験や入学試験、不動産契約などに転用される可能性がゼロではない。そうして全人格的な評価がされると、AIによって貧困が生まれる『バーチャル・スラム』化も懸念されます」