糖度40.5度の世界一甘い桃、1玉300万円也。手掛けたのは、福島県で小さな果樹園を営む古山浩司氏だ。奇策を繰り出し桃の糖度向上を実現する、彼の孤軍奮闘を追った。
なぜ、これほど甘いのか。一般的な桃の糖度は11~15度。2021年に古山果樹園の桃が記録した糖度は、40.5度。JAS規格では製品化されたジャムの最低糖度が40度なので、調理加工せずジャム級の甘さに到達した計算となる。
古山果樹園の代表、古山浩司氏は枝に実らせたまま桃の完熟をひたすら待つ。悪天候、病害、虫害のリスクが格段に高まるのは覚悟の上、糖度が最高潮に達したタイミングでの収穫を徹底させると、桃は着実に糖度を増していく。糖度30度に達した桃は1玉100万円、35度は200万円、40度は300万円の値をつけて売りだしたのだった。
古山氏は工業系の高校・大学と進み、卒業後はエンジニアとして国内外を飛び回った。だが、自分の努力が結果につながるシンプルな環境を求め、34歳にして実家の営む果樹園を継ぐ決意を固めた経緯がある。
「桃の達人と呼ばれる人はいましたが、それは単なる栽培の達人。桃を甘く育てる技術を持った達人はいませんでした」(古山氏)
そこで、エンジニア時代に培った情報収集力やコミュニケーション力を武器に、古山氏は甘い栗やトマトを栽培する生産者に話を聞きヒントをもらった。知人の漁師からはウニの殻をもらいうけて畑に撒き、土壌を改良した。そして、店頭販売時に果実が傷む事態を最大限避けるため未熟な果実を出荷してきた慣習を止め、完熟した果実のみを出荷する流れに変えた。結果、毎年20度以上の糖度を誇る桃が実る果樹園として知られるようになった。
ギネス世界記録で認定された桃の最高糖度は22.2度。現在はギネス側が新規申請を停止中だが、昼夜の寒暖差、ミネラル豊富な土壌、豊富な日光量など好条件が揃い糖度が上昇した古山氏の桃は実質世界一だ。
次なる目標は「糖度50度超え」。成功すれば1玉1億円で売り出そうと、古山氏は心に決めている。強気の値付けで福島の桃の復権を広く轟かせるのが、彼の最終目標なのだ。