財産の多寡にかかわらず、もめることの多い相続問題。自分が亡くなった後に残された家族が相続でもめたり、多額の相続税を課せられて損をしたりなどのトラブルに巻き込まれないためにも、生前に遺言書をしっかりと作成していくことが重要だ。
遺言書を作成するうえで知っておきたいのが「遺留分」だ。遺留分とは、法律で定められた最低限の取り分のこと。たとえ遺言書に「1円も渡さない」と書かれていても、遺留分は奪うことはできない。ベリーベスト法律事務所の弁護士・的場理依さんが指摘する。
「子供が3人兄弟なのに“長男にすべて相続させる”と書くなど、誰かの遺留分を侵害するような遺言書は、紛争になる可能性が非常に高い。ただし、“遺留分相当の現金を相続させる”という書き方は、それに相当する現金がないと、何かを売って補填しなければならなくなるため、かえって相続人を困らせることになるかもしれません。
いちばんシンプルなのは“預貯金は長男へ、家は長女へ”などと、財産ごとに分けて相続させること。特に不動産は分割が難しく、できるだけ共有名義にしない方がいいため、慎重に検討すべきです」
誰に何を相続させるか決める際、安易に「自宅はやはり、長男に継がせた方がいい」などと決めると、後から相続人が困ることもある。相続・終活コンサルタントで行政書士の明石久美さんが言う。
「相続税がかかると仮定すると、もし長男がマイホームを持っていて、次男が賃貸住まいなら、次男に相続させれば、小規模宅地等の特例で評価額が8割減になります。気持ちだけでなく、相続人の事情も考えて、慎重な判断を」
遺言書には「誰に」「何を」「どんな割合で」相続させるかを、できるだけ具体的に書かなければならない。
だが、株などはもちろん、不動産の評価額や預貯金の残高は変動するため、金額の明示は難しい。ベリーベスト法律事務所の弁護士・田渕朋子さんが言う。
「“○分の1ずつ”などと書くと、利息や端数の扱いが難しくなるため、金融機関が対応できないケースもあります。また、現物で遺産を相続させて、ほかの相続人には一定の代償金を支払うように遺言書に書くこともあります。
この場合は、代償金を遺産の中から出すのか、相続人自身の財産から出すのか、ほかの相続人の遺留分が侵害されることはないか……と、さまざまな事情を加味して代償金の額を決め、遺言書に記載することになります」