電通やタニタなどの有名企業で、雇用契約と業務委託契約を選択できる制度が導入されている。業務委託契約の場合は、立場的にはフリーランスとなるわけだが、会社員を辞めてフリーランスとなることのメリットやデメリットには、どのようなものがあるのか。社会保険労務士でファイナンシャルプランナーの川部紀子さんが解説する。
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フリーランスは、職業を問われれば「自営業者」にあたります。本人も仕事の発注者も、あくまで自営業者であることを認識することが非常に重要です。
近年増えつつあるのは、雇用契約から業務委託契約に変わり「フリーランス化」した元会社員です。全部または大半の仕事を委託元の会社の名刺で行っており、ほとんど会社員の頃のような暮らしをしています。なかには、家族やパートナーには自営業者ではなく、会社員だと思われている人もいるようです。本人も、謙遜混じりに「いや、自営業ってほどではなくて…」という様子です。業務委託契約に変更することで、能力次第で会社員時代より収入アップも期待できますが、はたして簡単に飛びついてよいものでしょうか。
結論から言うと、安易なフリーランス化はデメリットが多いと考えます。一方、雇う側の会社にとっては社員がフリーランスになってくれればお得なことがいっぱいあります。
「フリーランス化」という言葉は使わないまでも、タニタ、電通といった有名企業でも、今いる社員が業務委託契約も選べるようにする制度を導入して話題になりました。また、サントリーホールディングスの新浪剛史社長の発言から「45歳定年制」という言葉がピックアップされたケースもあります。
フリーランス化の提案は、今後の自分自身にも起こり得ますし、フリーランスの人と一緒に仕事をする場面も増えていくことが予想されます。そんなフリーランス化にまつわる、誰もが知っておくべき知識を確認していきましょう。
「フリーランス化」会社の本音と建前
まず1つに、フリーランス化すると、残業という概念はなくなります。「残業NG」が社会全体に広がってきていることはお気づきのことと思います。ひと昔前は当たり前だった「サービス残業」などが労働基準監督署に指摘されると、会社名を大きく報道される可能性もありますし、過去に遡って該当社員全員に未払いの残業代を払う事態になります。
しかし、今でも「ウチの業務が8時間で終わるなんてあり得ない」「ウチの規模で残業代なんて」という会社も存在します。労働者側も同様の考え方を持ち続けているケースも見られます。会社も労働者も「ブラック企業」を自覚して受け入れているのです。
これらを司る法は「労働基準法」。法律を遵守するのは当たり前のことですが、もし労働基準法の存在が会社の業務を阻害していると考えるのであれば、会社にとってその制約から逃れる確実な方法は「労働者を雇わない」こと。人材が必要なら「外注」すればよいのです。在籍している労働者を雇用契約から業務委託契約の個人事業主に変更させれば、その者に対して労働時間や残業代という概念も消えてなくなります。
しかし、これは表立って言えることではないので、建て前としては「時間に縛られない自由で新しい働き方」といった言い方で説明されるのが一般的です。