日本企業では今、かつてない大幅な「賃上げ宣言」が相次いでいる。「ユニクロ」を運営するファーストリテイリングは今年3月から正社員(8400人)を対象にした賃上げを実施すると発表。初任給を25万5000円から30万円に、入社1~2年目で就任する新人店長の月収を29万円から39万円に引き上げるのをはじめとして、年収ベースで数%~約40%アップし、人件費は約15%増える見込みだという。
ほかにも日本生命が今年4月から約5万人の営業職の給料を約7%増額し、キヤノンは現在の昇給制度とは別に全社員の基本給を一律に月額7000円引き上げる方針を発表している。飲料大手・サントリーホールディングス(HD)の新浪剛史社長は今年の春闘で「ベアを含め6%の賃上げを実現していきたい」と表明するなど、大手企業が続々と「賃上げ宣言」をしている。
日本のサラリーマンの多くは、「給料4割アップ」と聞くと好調な企業だけの“夢物語”に思えるだろう。だが、決して不可能な数字ではない。日本ではこの30年近く、給料がまったく上がっていないからだ。
民間企業の会社員の平均年収を見ると、1992年の約445万円から、2021年は約443万円と下がっているほどだ(国税庁「民間給与実態統計調査」)。同じ期間に先進国と呼ばれるOECD加盟国全体では4割近く、米英独仏カナダの5か国平均は5割近く賃金が上昇した。この30年間、先進国で日本だけが賃上げから取り残されてきたのだ。
500兆円もの“原資”がある
なぜ、日本は給料が上がらなかったのか。雇用や賃金に詳しい人事ジャーナリスト・溝上憲文氏が語る。
「バブル崩壊後、日本企業は賃金を上げずに利益を出すことばかり考えてきた。基本給のベースアップをやめたり、家族手当を縮小するなど賃金を抑制し、下請けから安く買い叩くことが企業努力とされた。本来、企業努力とは商品やサービスの質を高め、利益を増やして企業の価値を上げることだが、日本ではそれとは違う後ろ向きの事業戦略を取ってきたわけです」
その結果、日本の平均賃金はOECD加盟の34か国中24位(2021年)と韓国やリトアニアより下位の“低賃金国”に転落した。しかも日本企業は賃金を抑えてきた間に500兆円近い内部留保を貯め込んでいる。