日本にいるだけでは、日本の経済力が今どのぐらいの水準にあるのか実感しにくい。現在、多くの国でコロナ関連の入国規制が緩和されており、各国は積極的に外国人観光客を受け入れている。日本人にとって、1990年代中頃ぐらいまでは、円高もあって海外旅行は比較的身近なものだったが、昨今の円安と給料が上がらない状況下ではそのハードルは上がっている。現在、タイ・バンコクに滞在中のネットニュース編集者・中川淳一郎氏が、現地で感じた“日本の経済力の変化”をリポートする。
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2021年に刊行された『安いニッポン 「価格」が示す停滞』(中藤玲・日本経済新聞出版)では、日本で販売されている商品の価格が100円ショップのダイソーも含めて他国よりも安いことや、日本人の賃金が上がらないこと、サンフランシスコでは年収1400万円でも低所得層であることなどが描かれました。
この本が話題になった後、ネットでは「そうはいっても日本は快適だ」「この価格でおいしい食事が食べられ、治安の良い日本から出る理由がない」「家賃30万円、ランチに3000円かけるような場所に住みたくない」などと、「安いニッポン」を肯定する声が多数書き込まれました。
しかし、私は今タイに来て、「これじゃマズいだろ……」と感じています。現在、5つ星ホテルに泊まっているのですが、2000年代前半には多くいた日本人がまったくいない! その代わり多いのがインド人です。白人は従来通りたくさんいます。韓国人も時々見ます。
街を歩いていてもかつては「コニチハ!」と客引きから言われたのですが、客引きそのものの数が減ったのに加え、何か声を掛けられても「アンニョンハセヨ」か「ニイハオ」になっています。2000年代前半は「エロビデオアルヨ」「イイオンナイルヨ」などと散々言われたものですが、もはや日本人は上客ではないのでしょう。食堂に行ってもかつて日本語メニューがあったのに、同じ店で中国語に代わっていた。
それはタイの3輪タクシー「トゥクトゥク」の客引きでも同じです。当たり前のように“観光客料金”を取るのですが、「日本人は値切りまくるためあまり上客ではないと考えられている」という話を地元在住日本人から聞きました。
ホテルのエレベーターで一緒になったマレーシア人のみが「ジャポン?」と聞いてきました。多分、雰囲気的に私と妻が中国や韓国の人っぽくなかったのだと思われます。それでもマレーシアの人が日本人の代わりにここに泊まっているのか……と思い、日本の経済力低下を実感しました。3年前にバンコクへ来た時も食堂で日本人の若者4人がビール1本を4人でシェアし、1時間何も頼まない姿を見て、少し恥ずかしくなったことを思い出しました。