鉄道は、多くの人にとって交通の手段としてだけでなく、趣味や娯楽の対象としても親しまれており、ときに人々の知的好奇心を刺激してくれる。たとえば、鉄道に乗っている時に流れる、「次は~、○○」などという“独特な声”の車内アナウンス。実は近年、そうした声を聞く機会が減りつつあるという。交通技術ライターの川辺謙一氏による連載「鉄道の科学」。第9回は「車掌のアナウンス」について。
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列車に乗務する車掌のなかには、独特な声でアナウンスする人がいます。あの鼻にかかったような独特な声です。
なぜこのような声でアナウンスする車掌がいるのでしょうか。そして、近年そのような車掌の声を聞く機会が減ったのはなぜなのでしょうか。
今回は、民鉄とJRのそれぞれに所属する2人のベテラン車掌にインタビューすることで、その謎を探ってみました。
独特な声でアナウンスする3つの理由
まずは結論から言います。2人のベテラン車掌の話をまとめると、独特な声でアナウンスしていた理由は、次の3つに集約されるようです。
【1】車内の騒音が大きい
【2】車内の放送設備の音質が悪かった
【3】あの声だと喉が疲れにくい
【1】【2】は、乗客が車掌の声を聞き取りにくくする要因です。つまり、車掌が独特な声を意図的に使うことで、声を目立たせ、乗客がアナウンスを聞き取りやすくしていたのです。
【3】は、車掌自身の疲労を減らす要因です。停車駅が多い列車では、車掌がアナウンスする頻度が高くなるので、喉が疲れやすくなります。いっぽう、あの独特な声でアナウンスすると喉の負担が減るようなので、その声を使う車掌が増えたという訳です。