米オープンAIによる「ChatGPT(チャットGPT)」が注目を集め、さっそくサービスに取り入れようとする日本企業も現れている。しかし、経営コンサルタントの大前研一氏は、チャットGPTは発展途上で「入力する情報が正しくないと、出力される情報も正しくない」という「ギーゴ(GIGO=garbage in, garbage out)」問題が残っていると指摘する。
他方で、ビッグデータ解析に特化したアメリカのソフトウェア企業「パランティア・テクノロジーズ」(以下、パランティア)なども台頭している。急速に進化を遂げる情報化社会で、近い将来AIが人間の能力を超えると指摘する専門家も少なくない。人間が生き残るためには今後どういったスキルが必要となるだろうか。新刊『第4の波』も注目を集める大前氏が解説する。
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パランティアは、アメリカおよび世界の政府機関や民間企業にサービスを提供しているが、とくに注目されているのは軍事分野だ。もともと同社は2001年のアメリカ同時多発テロ後の国家安全保障向け事業からスタート。主要商品の1つ「ゴッサム」は、膨大なデータの中から一定のパターンを見つけ出すAI対応のオペレーティングシステムで、アメリカ政府の情報機関(USIC)や国防総省(ペンタゴン)のテロ対策アナリストをはじめ、世界の防衛機関や情報機関などに使用されているという。
パランティアの最近の“成果”は、ウクライナ軍の対ロシア戦における「キルチェーン」【※】の短縮である。たとえば、2月上旬に東部ドネツク州の激戦地バフムトでロシア兵1000人以上が1日で死亡したとされる際も、同社のシステムによるデータ解析と戦術面でのソリューションが奏功したと言われている。
【※攻撃の構造を「目標の識別」「目標への武力の指向」「目標を攻撃するかどうかの決心と命令」「目標の破壊」に分類したもの】
具体的には、ロシア軍から攻撃を受けた場合に「敵は兵站が脆弱で、あと○分撃たせれば弾薬がなくなるから、そこで反撃すればよい」というように、最も効果的な作戦を助言するのだ。
さらにパランティアが優れているのは、作戦の選択肢を2案、3案と用意して、最後は人間が判断する仕組みになっていることだ。アドバイスが1つだけだと前線の指揮官に判断の余地はないが、複数の選択肢があれば、人間がAIに“支配”されることはない。
要するに、今のウクライナ戦争は、プーチン大統領の感情的な判断による「アナログ系ロシア」対AIの論理的な判断による「デジタル系ウクライナ」(サポーテッド・バイ・アメリカ)という構図であり、なかでもパランティアのシステムがウクライナの善戦に果たしている役割は、かなり大きいと思われる。