津波の捜索現場で苛まれた「無力感」
折腹さんは、震災2か月後の5月に、若林消防署の警防隊という、現場で救助・捜索活動を行う部署に異動となる。
若林区は、市内でも特に津波被害が大きかった場の1つで、同区の荒浜地区はいち早く「200~300人の遺体を発見か」と報道された。
「2か月後ですから、当然、すでに亡くなったかたを捜す活動でした。がれきや土砂がたまり、車が散らばった現場に立ち、『自分には、遺体を見つけてあげることしかできないのか』という、どうしようもない無力感に苛まれました。と同時に、災害が起こった瞬間は、誰も助けてくれない。自分の命は自分で守るしかない、との思いも強くしました」
防災は、当事者意識を持たなければなかなか根付かないという。仙台市では、震災前は行政主導だった避難所の運営を、行政・町内会(自治会)・学校の3者で協力する体制に変えた。また、「地域防災リーダー(SBL)」を募り、地域で助け合うための組織作りを進めている。目指すのは、「人任せにしない防災」だ。
「阪神・淡路大震災でも、すぐに消防車や救急車が駆けつけられない状況で、隣近所の助け合いが多くの人の命を救ったそうです。大きな災害では消防が助けられる命は限られています。まずは『自分の身を守る』、次に『まわりの人たちと助け合う』。この両輪で災害に取り組むことが大事です。それは、震災の教訓で確信したことです」
折腹さんはいま、全世代が楽しみながら防災の知識を学べる動画を配信している。
「配信を始めたのはコロナ禍がきっかけです。市民講座などの場で防災を伝える対象はどうしても年配のかたに偏りがちだったところ、動画を契機に多くの子供たちから反響があったことがうれしいですね」
【プロフィール】
折腹久直さん/仙台市防災・減災アドバイザー。東日本大震災の教訓をもとに、災害への備えに関する啓蒙活動を行う。子供にも人気のYouTubeチャンネル「おりはらアドバイザーの3分間防災ちゃんねる」では、企画・出演・編集も行う。
取材・文/佐藤有栄
※女性セブン2023年3月16日号