Aさんはマーケティングに関する知見を様々な国で得た人物で、日本の本社にその知見を広げようとしていたそうです。
「オレはそうやったほうが会社にとってもプラスになると思ったし、若い同僚たちはオレの提案に目を輝かせてくれた。でも、上司にとっては面白くなかったんだろうね。会議になると必ずオレの発言に『でもさ……』と言ってくるし、『キミの言ってることはあくまでの海外の話だろ? 日本のマーケットとは異なるものをあたかも日本全体に当てはめるようなことはしないでほしいんだけど』なんて言いながら、却下してくる」
こういった状況が数か月続いたAさんは、“この後、異動することがあったとしても、やっぱり同じような上司に出くわすかもしれない。そもそも、今回の上司が悪い評判を吹き込むかもしれない”と考えるようになりました。そして、「この会社で上司がいる限り、永遠に同じような扱いを受けるかもしれない」と、一気に転職を決意。
結局Aさんは、約1年かけて転職に成功しました。新しい職場は、これまで培ってきたキャリアを評価してくれるところだと言います。ただ、元の会社のことを考えると、“人事異動さえしなければ、優秀な人材を流出させることもなかったのに……”とも感じてしまいました。
こういった話を聞くと、人事異動って本当に必要なのかな、と思う面もあるんですよね。会社にとっては、ゼネラリストを育てたいという気持ちもあるのかもしれませんが、仕事には向き不向きもあるでしょうし、そもそも人間関係で成り立っているわけで、各人が居心地の良い場所で仕事ができればいいのに、とも感じます。杓子定規に「3年経ったら絶対異動!」とかは、しないでもいいのになぁ……。
【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は『捨て去る技術 40代からのセミリタイア』(インターナショナル新書)。