新型コロナ禍が収束しつつある中で、対面での就職活動が再開されるようになっている。日本ではいまだに学歴を重視する傾向が残っているが、新刊『第4の波』の中で、AI(人工知能)革命がもたらすまったく新しい社会の到来を解説している経営コンサルタントの大前研一氏によれば、従来の大学教育や入試こそ変えていくべきだという。なぜ日本人の給料は上がらないのか——そんな疑問に答えるヒントがここにはある。
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2022年1月に、東京大学の赤門の前で名古屋の高校2年生が受験生を刺した事件がありました。これは、偏差値1位が東大で2位が京都大学、とりわけ東大の中でも医学部が最難関で、将来もらえる給料が高いと、そういう勘違いをしたんです。
実際のところ、世の中はそれほど単純ではありません。いま医学部へ入ったとしても、インターンも含めて10年は学校に縛られて、その後も病院の勤務医になったら安月給で夜勤もあるし、長い間大きな病院に勤めていずれ開業できればいいんですけど、開業にはざっと2億円ぐらいかかるとも言われていますので、その資金を貯めるまでに50歳を過ぎてしまうと、最終的にリターンが得られません。
そのようなことで、医者になれば金持ちになれるとか、大企業のトップの給料よりも医者のほうがいいというのは、今では大きな誤解であると言えます。それならば、むしろ起業したほうが儲かるに決まっています。結局、偏差値によって大学の序列が決まるような偏った考え方から脱却するしかありません。
世界には「公平な大学」などない
たとえば、アメリカのスタンフォード大学は起業する学生が多い。それが大学の個性となって、優秀な学生たちが集まります。私もスタンフォードで2年教えていましたが、教授室のドアはいつも開いているので、学生たちがやって来ては私の前の椅子に座って、自分の起業のアイデアをプレゼンしていくわけです。それで、「先生も一枚どうですか?」と声がかかるので、有望なビジネスになりそうなら、教授たちも資本を投じていくわけです。そういうふうなことで、スタンフォードの先生は、講義で教えるよりも学生たちのアイデアを聞いて投資するミニ・インベスターみたいな感じでやっています。
あるいは、インド工科大学(IIT)なら優秀なエンジニアが多数揃っています。私は、アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)の社外取締役を5年やりましたけど、入試を公平にやったら全員がインド人になってしまいます。そのぐらい、インド人の理数系の能力はすごいです。また、モスクワ大学も、公平にやるとユダヤ人の子弟だけになります。子弟の教育にものすごいお金をかけてきていますから。つまり、公平な大学なんて世界中にないんです。