お笑い芸人・にしおかすみこさん(48)が書いた、泣き笑いエッセイ『ポンコツ一家』(講談社)が話題だ。同書では80歳で認知症になった母親、ダウン症の姉、酔っ払いの81歳父との日々の暮らしを綴っている。現在、彼女は千葉県内の実家に両親と姉と4人暮らしをしている。なぜ、にしおかさんは実家に戻ったのか。その背景には経済的な事情もあったという。にしおかさんに家族と向き合う日々について、聞いた。【前後編の後編。前編から読む】
変わり果てた「母」その現実と向き合って
「2020年6月に実家に戻ったのですが、そのときは、私の経済的なことが理由のひとつでした」(にしおかさん・以下同)
コロナ禍で仕事が無くなり、貯金も底をついてしまった。月18万円の賃貸マンションの家賃が払えなくなり、家賃10万円のマンションに引っ越しを決めた。荷造りを終えホッとし、ふと実家の様子も気になり、約1年ぶりに帰省したところ、ゴミ屋敷のようになった居間に、母親が無表情でポツンと座っていた。
実家の居間の網戸には砂埃がびっしり。床は砂でジャリジャリするほどだった。もともと母親は掃除をはじめ、ひととおりの家事はキチンとする人だった。看護師をしながら家計をやりくりし、自分のことは二の次にして長女とにしおかさんを育てたしっかり者だ。明るくよくしゃべる人ではあったが、1年ぶりに会った母はなぜか言葉が荒れていた。
「『頭かち割って死んでやる!』と少し時間をあけて数回繰り返しました。そんな言葉、以前は使う母ではなかったので驚きました。悩んでいる時間はなかったので、引っ越し先を実家に変更しました」
本当に認知症になっているのかどうか、そして今後のことも考えて精神科に連れて行こうとした。しかし、何度説得してもうまくいかなかった。それがある日、ふと「あー! 行ってやらあ!」「出るとこ出て腹かっさばいて散ってやらあ!」という言葉が母親の口から出た。威勢のいい言葉とは裏腹に、不安と、追い詰められたような感じが表に出ていて、にしおかさんは「私のやっていることはあっているのか」と葛藤する。