介護は突然やってくる。元気だと思っていた親が高齢や病が原因で認知症や半身不随になり、子が突然、介護に直面し戸惑う例は珍しくない。お笑い芸人・にしおかすみこさん(48)も80歳の母親が認知症らしきことがわかり、20数年ぶりに実家へ戻り一緒に暮らし始めた。それから約3年が経つ。その2020年6月から約1年間の顛末や日々の暮らしを綴った泣き笑いエッセイ『ポンコツ一家』(講談社)が話題となっているが、にしおかさんの家族の物語には、高齢になった家族と暮らす心構えのヒントが詰まっている。あらためて、にしおかさんに話を聞いた。【前後編の前編】
家族だからこその強い感情
にしおかさんは千葉県内の実家に両親と姉と4人暮らし。『ポンコツ一家』の冒頭は、3年前から始まるが、その当時の母は80歳で認知症、1歳年上の姉はダウン症、81歳の父は酔っ払いで、自身は元SMの一発屋芸人で行き遅れ、と全員が“ポンコツ”だと書かれている。そんな一家の暮らしはドタバタ続きだ。
「日常のひとつひとつの出来事は何が大変というほどでもないのですが、積み重なっていくと何となくしんどくて、ヘトヘトになっていますね」(にしおかさん・以下同)
「大変というほどでもない」と言うが、なかなかに壮絶だ。
たとえば、実家へ戻って半年後の大晦日。にしおかさんが1人で料理や大掃除に奮闘していると、姉が自室で排泄の粗相をしてしまい、母親と父親がその原因をめぐって大げんかに。にしおかさんが「くさいからあああ!! どうでもいいから掃除してよ!!」と怒鳴ると、母親からは「見なかったらいい!!」、父親からは「換気したらいいんだろ?」という解決にならない言葉が返ってくる。
当の姉はフローリングワイパーで掃除していたが、シートをつけておらず、床全面に塗り広げてしまう。にしおかさんが替わって掃除をし、施設入所などプロの助けも今後視野に入れよう、でないと老老介護になるよ、と母親に水を向けると、「鬼が!」と聞く耳をもたない。たまらず家を飛び出し、東京・六本木へ出て映画館に入るが、スクリーンに映し出される『鬼滅の刃』はまったく頭に入らずただただ涙が流れる……。
帰宅すると母親の、長女やにしおかさんを想う、あたたかく切ない手紙に救われるが、家族だからこその率直な言動、行き違い、空回りする強い感情に翻弄されている様子に胸が痛む。もしも自分が突然、同じ立場に直面したら、と想像すると、やはり笑っていられない。
「でも、過ぎてしまえば過去になってしまいます。次々いろんなことが起きますから」