診断結果は初期のアルツハイマー型認知症。家族にとっても、受け入れるのはつらいものだ。それでも、認知症の診断書をもって市区町村の窓口に申請し「精神障害者保健福祉手帳」を取得すれば、所得税や住民税の控除、公的施設の利用料やNHK受診料の減免などが受けられる。メリットは大きい。しかし、にしおかさんは、そこまで考えてはいないという。
「以前、友人が教えてくれた地域包括支援センターの方に電話で相談し、一度、自宅に両親と姉の健康状態をみる、という名目で自宅に来ていただいたことがあります。それでも母は自分の認知症の様子を見に来たと勘づき、後で荒れました。たったこれだけのことで私自身、気持ちが疲れてしまい、要介護認定の申請もしていません。ですので今は、母がもともと糖尿病で長年お世話になっている、かかりつけの病院に、私と一緒に通っているのみです」
認定されるためには、改めて調査員の訪問を受けなければならない。大変な思いをして調査員を受け入れたとしても、地域包括支援センターの人の見立てでは、せいぜい要支援1か、場合によっては認定がとれない可能性もあるという。だとすると、認定をとるための馬力が出ないのも無理からぬところだ。それでも、高齢家族の悩みに寄り添うプロに話を聞いてもらったことは、にしおかさんにとって大きかったという。
「最初は地域包括支援センターの方に、何を話せばいいのかさえわかりませんでした。なぜ自分がイライラするのか、ヘトヘトになるのか、よくわからないまま毎日進んでいたので。でも、そういった気持ちも、すぐ察して私が話しやすいように質問を交えながらリードしてくださって、ウチの家族の状況を把握してくださいました。やはりたくさんのご家庭のケースを見ているプロの方は凄いなあと思います。
わかってくださる、ひとりじゃないということが嬉しかったし、気持ちが救われました。先々、こういう選択肢や方法もありますよ、といった情報も提供してくださいました。話すだけでも電話して良かったと思いました」
話す前は、家族の問題をどこまで話せば良いのか、どこまで理解してくれるのかわからず不安になるものだが、高齢者本人にも、周りの家族にも、助けの手は差し伸べられている。それに気づけば少し楽になれるはずだ。