書く仕事で収入を増やして家族の生活を守りたい
介護認定がとれれば、それほど大きくない負担で、たとえばヘルパーの訪問を受けての掃除、洗濯、買い物、調理など、限度はあるが、さまざまな行政サービスを受けられる。だが、にしおかさんは、介護認定を受けるところまでいってはいないようだ。
現状は、にしおかさんが仕事をしながら、家族の家事を受け持っている。料理ならば朝5時に起きて家族全員分のおかずをまとめて作りタッパーに分け入れ、冷蔵庫で保存している。母親や酔っぱらった父親が調理し火事を起こさないか心配であることや、なるべく身体に良いものを食べてほしい気遣いからだ。家族を思うからこそだが、万一、にしおかさんが倒れてしまったら万事休す。
「今のところサービスを受けなくても、ギリギリ何とか生活が回っているので……。いつかもっと追い詰められるときがきたら、介護認定はそのときに考えるか、と先延ばしにしています。つい家族の誰から倒れるのか、次々になのか、いっぺんになのかと想像してしまうこともあります。
そんなとき家でできる仕事があったら助かるなと思ったことも、2年前にウェブでエッセイを書き始めた動機のひとつです。小さい頃から読書が好きで書くことも好きだったので、最初はたたき台をマネージャーさんに見てもらって、編集者さんに売り込んでもらいました」
エッセイは評判を呼び、書籍化に至った。今後は小説執筆も視野に、より文筆業に注力したいと考えている。今後、仕事がもっと忙しくなっていくことを想定すれば、さまざまな助けを借りて安心して仕事に取り組める基盤を作っておきたいところ。それによってにしおかさんの収入が増えれば、家族みんなの生活を守ることにもつながる。
「でも、ヘルパーさんが家に入るというのは、母にはとても抵抗があると思います。『すぐに慣れるよ』と周りの方々に教えていただいたりします。きっとそうなんだろうなあ、と思ったりもします。でも姉と母はずっと一緒に家にいたいだろう。『自分たちの家なんだから好きなだけいなよ』と思ったり。でもそのパターンだときっと私がもたない、そしたら全部捨てて逃げるか。……母と姉はどんなパターンが、何が一番幸せ? と堂々巡りでわからなくなります。
ただ母が認知症になる前から『イザというときには入りたい』と話していた施設があります。今は貯金もないのでどっちみち無理です。お金が全てではありませんが、書くということで仕事の幅が広がって、貯金ができて、施設等のもしもの選択肢が増えたらいいなとは思います」
にしおかさんと同じような葛藤を、多くの家族も抱えているのではないか。だからこそ、『ポンコツ一家』は多くの人の共感を得ているのだろう。
(了。前編から読む)
【プロフィール】
にしおかすみこ/1974年11月18日、千葉県生まれ。2007年、お笑い番組『エンタの神様』(日本テレビ系)で女王様キャラのSMネタでブレイク。2008年、自叙伝『化けの皮』(ゴマブックス)出版。2009年、春風亭小朝に入門し、“春風こえむ”の高座名で落語に挑戦。現在は生活情報番組『なないろ日和!』(テレビ東京系)などでリポーターとしても活躍する。趣味のマラソンでは2019年、3時間05分03秒でフルマラソンを走りきった。最近はベジタブルカービングにハマり中。
取材・文/中野裕子 写真/山口比佐夫