会社員は急なケガや病気に見舞われても、労災保険により補償されるケースは少なくない。労災が適用される・されないの線引きはどこにあるのか、弁護士の竹下正己氏が実際の相談に回答する形で解説する。
【相談】
赴任してきたばかりの九州で、10年に一度の大雪。それでも何とか通勤したのですが、途中で滑り、派手に転倒し、膝を痛めました。会社に労災をお願いしたところ、担当者は「転ばない歩き方が報じられているし、すべては自己責任」だと取り合ってくれません。通勤途中の場合でも労災は適用されますか。
【回答】
通勤中は、使用者の支配下にはありません。しかし、通勤が労務の提供と密接な関連を有することに着目し、通勤に内在する危険が事故として現実化したときには、業務災害の場合と同様に労災(通勤災害)になります。従って、通勤に起因した災害であること(通勤起因性)が必要です。
通勤時、歩行中に滑って転んだのではなく、突然、持病による脳内出血を起こして意識を失い、倒れてケガをしても通常の通勤に内在している危険とはいえず、労災にならない可能性があります。
また、労災になるには、通勤を住居と就業の場所との間の往復等の移動で、合理的経路と方法により行なうことが条件です。その経路を外れたり(逸脱)、中断すると、その後の移動は通勤ではないとされ、事故に遭っても労災になりません。ただし、逸脱などが日用品の購入や通院など、日常生活に必要な行為で、やむを得ない事由で行なう最小限の場合や要介護者の介護のために必要な場合は、通勤災害の対象になります。その場合でも労災になるのは、本来の通勤経路に戻ってからの事故の場合であり、通勤経路から逸脱している間の事故は対象外です。