90万円も得になる
相続時精算課税制度は、60歳以上の人から18歳以上の子や孫への生前贈与について、「2500万円までは贈与税が非課税」になる制度だ。その代わり、贈与者が死亡して相続が発生したら、贈与していた分が相続財産に加算され、相続税が課されるというもの。
図の【2】はルール変更前(2023年まで)の相続時精算課税制度を利用したケースを示したものだが、見ての通り贈与税がかからないものの、贈与した分はすべて相続財産にカウントされるので、相続税の節税効果はない。
相続財産は4500万円のまま変わらず、90万円の相続税がかかるのだ。節税に使えないうえに手続きも煩雑だったため、これまで相続時精算課税制度を使う人はほとんどいなかった。しかし、2024年以降はその状況が大きく変わりそうだ。相続サポートセンター代表で税理士の古尾谷裕昭氏が解説する。
「2024年以降は、相続時精算課税制度にこれまではなかった『毎年110万円の非課税枠(基礎控除)』が新設されるのです。年110万円を超える贈与については、累計額が2500万円を超えるまでは贈与税が非課税。この2500万円枠の部分が将来的に相続財産としてカウントされる点は変わりませんが、とりわけ注目すべきは暦年贈与と違い、こちらの110万円の基礎控除には『持ち戻しがない』という点です」
制度変更後の相続時精算課税制度を利用した場合が上図の【3】だ。年110万円の非課税贈与を10年間続け、10年目に親が亡くなった場合でも、持ち戻し期間がないために相続財産は3400万円まで圧縮できる。基礎控除(3600万円)の範囲内に収まるため、「相続税も贈与税もゼロ」にできるのだ。【1】の暦年贈与、【2】の制度変更前の相続時精算課税制度と比べて、大きな節税効果が期待できる。
ただし、「注意点もある」とは前出の植崎氏。
「まず、一度、相続時精算課税制度を選択したら、途中で暦年贈与への変更はできません。また、株式のような有価証券や不動産は贈与された時点の価値で相続税が計算されるので、相続時に価値が下がっていた場合、余分に相続税を払わなければならないリスクがあります。また、被相続人と同居する子などが利用できる『小規模宅地等の特例』が併用できないという点にも注意が必要です」
小規模宅地等の特例は上手く利用すれば節税効果が大きいので、“使いたいのに使えない”という事態は避けたい。そうした前提を理解したうえで、状況に応じた使い分けが望ましい。
「贈与は一人ひとりと契約をするものなので、たとえば息子が2人いる場合、長男には相続時精算課税制度を使い、次男には暦年贈与を使うのも手です。その場合は相続発生時、小規模宅地等の特例を使って次男に自宅を渡すといった考え方もできるでしょう。60歳になるまで暦年贈与で毎年110万円ずつ贈与し、60歳以降は相続時精算課税制度の新ルールで毎年贈与といった使い方もあり得る」(前出・古尾谷氏)
相続時精算課税制度を利用するには、事前の届け出が必要となる。相続時精算課税選択届出書、贈与者と受贈者の関係を証明できる戸籍謄本や戸籍抄本などを携えて贈与者の納税地の所轄税務署へ届け出る。
まずは専門家に相談する方法もある。ルールがどんどん変わるなかで、最新の知識を身につけることが重要なのだ。
※週刊ポスト2023年4月7・14日号