このような対策の内容だと、「結局、税金は上がる」「職場の配偶者手当がなくなるのは損」というように考える人も多くなるでしょう。このままでは、政府が目指すような「労働時間を気にせず働く」状況につながるようには思えません。年収の壁を見直す、または撤廃するのであれば、同時に税金の壁についても見直す必要があると思います。
また、被用者保険の対象者を多くのパート労働者に拡大すると、一時的に保険料が助成されたとしても、原則的には保険料は労使折半であるため、企業の保険料負担もゆくゆくは増大するはずです。最低賃金の引き上げも重なれば、企業の負担が大きくなるので、パート労働者の雇用を躊躇したり、雇用の抜け道を探り始める企業も出てくるでしょう。そのあたりの対策も必要なのではないでしょうか。
会社員・公務員の配偶者への“不公平感”
もうひとつ、106万円、130万円の壁の議論で外せないのは、不公平感です。不公平感とは、会社員・公務員と、個人事業主・フリーランスとの間、既婚か未婚かの間にあるものです。
現在、会社員・公務員の配偶者は、無収入であったり、働いていても年収を抑えたりすることで、健康保険の被扶養者として健康保険料が負担ゼロ、国民年金の第3号被保険者として国民年金保険料の負担はゼロです。子どもがいなくても、高年収であってもその配偶者に関する負担はありません。それでいて、保険医療を受けることができ、国民年金保険料を納めている扱いになるのです。配偶者の保険料に上乗せされることもないので、未婚の会社員・公務員からは、なぜ同じ保険料なのか、という声が上がりやすいのです。
個人事業主・フリーランスとして働く人の配偶者にはこの制度がない点も問題視されています。たとえ無収入であっても、幼い子を育てていようとも国民健康保険料と国民年金保険料がゼロにはなりません。
これは、会社員・公務員でかつ、婚姻していることを前提とした制度、もっと言うと、夫が会社員で長時間働き、かつ、妻が専業主婦で家事や子育てを担う家族のスタイルに合わせてつくられたものです。現在は、働き方は多様化し、婚姻や出産についても様々な考え方が尊重されるべき時代になりました。このような制度はもはや時代にそぐわないものだといえます。