近い将来に予想される世界の食糧危機への対策として、栄養価が高く環境への負荷も少ない昆虫食が注目を集めている。その一方でこれまで食べた経験のない食材だけに、敬遠してしまう人もいるようだ。これまで『女性セブン』誌上で数々のチャレンジをしてきた名物ライター“オバ記者”こと野原広子さんが、“コオロギ食”について綴る。
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「はい、コオロギせんべい」
私の知り合いの中でいちばんの“新しもの好き”のYちゃん(52才)から「おみやげ」と言って手渡されたのが昨春のこと。「一緒に食べようと思ってさ」と彼女はペリッと袋を破いて、私に1枚手渡してくれたの。
コオロギを粉末にして練り込んだせんべいが2020年に、コオロギチョコが2021年に無印良品から発売されたそうで、「未来食ですごく話題になったのよ。ええ~っ、知らないの? 信じられない。遅れているって」と、さんざんなじられたっけ。
「いい? これから確実に食料危機が来るのよ。そうしたらどうしても良質な動物性たんぱく質が必要になるじゃん。その救世主がコオロギなんだって」
郊外の資産家に嫁いだYちゃんの車はプリウス。自宅の屋根一面に太陽光パネルが敷かれていて、いまの願いは家の壁に植物を植えてエコな暮らしをすることだそう。さすがにそれは夫に反対されて実現していないけど、「私は諦めない。いつかはそうするわよ」と意気込むんだわ。
彼女の口癖は「エコ」と「地球温暖化対策」。だからコオロギ食がいかに人類を救うか、まぁ、語る、語る。
「いい? イナゴとコオロギは全然違うのよ。イナゴは稲しか食べないけれど、コオロギは雑食だから飼料に困らない。どんどん繁殖するし、外の皮がやわらかくて皮ごと食べられるから、そのまま素揚げにするとサクサクしておいしいんだって。あと、粉にもしやすくて、こうしてせんべいやパン生地に練り込んだりできるんだって」
立て板に水のコオロギ講座だけどねぇ。結局、2人とも手にしたコオロギせんべいは口の中に放り込めないままだった……。
なぜか。茨城の山間部出身の私は、イナゴは子供の頃から食べてきたし、一時期、母親が金だらいにいっぱいのイナゴを田んぼから集めてきて、佃煮を作るのに凝っていたことがあったのよ。私はイナゴの足に抵抗はないけれど、母親は「(食感が)モサモサしてヤだ」と言って全部、はぎとった。それからしばらく泥を吐かせてから煮つける。
そんなわけで、いまイナゴの佃煮を作れと言われたら、なんとかできると思うよ。でも、きっと一生しない。決して楽しい作業じゃないもの。
ましてやコオロギ、だよねぇ。食べもしないで何を言うかと言われそうだけど、どうしても、カブトムシやクワガタムシを捕まえて遊んだ子供の頃の記憶がジャマをするのよ。しつこく手に残る独特の油くささが鼻腔によみがえってきて、私の中の“野性”が「やめとけ!!」と激しい抵抗をするんだわ。