一方通行の指導をやめて歩み寄った
選手との距離が広がるのと呼応するように、2008年から箱根駅伝の優勝も途絶え始める。「このままではいけない」と、還暦を前に思い始めたという。
「それで、自分自身を変えようと決めました。親に叱られたことのない子供を叱っても反発するだけ。彼らがどんなことを考えているのか、彼らの中身を本当に理解できなければダメだ。そこで、一方通行の指導をやめ、私の方から子供たちに歩み寄ったのです。
まず、コーチに任せていた早朝練習に顔を出し、50人いる部員一人ひとりの状態をつぶさにチェックしました。
以前なら見て見ぬ振りをしていたこともありましたが、『走りがいつもと違う。何か悩んでいるのかな』と感じたらすぐに一声かける。つい、『そんな走りじゃダメだ!』と強く言ってしまうこともありましたが、必ず練習後、監督室に呼んで、『なんでしっかり走れなかったと思う?』と選手の思いを直に聞き、『じゃあ次からはこうやってみよう。お前も、そうなる前におれに言ってくれよな』と、とことん話し合いました。寮のサウナで話をすることもありましたね」
コミュニケーションを図るうちに、選手の心と体のプラス面・マイナス面が見えるようになった。
「最初は『子供に気を使っていられるか!』と意固地になったりもしましたよ(笑い)。でも『監督は本気で自分と向き合ってくれている』とわかると、彼らは次第に心を開くようになり、練習のモチベーションも上がっていきました。
その結果が今回の三冠達成。引退する4年生を中心に『監督が果たせていない三冠を見せてあげよう』と話し合ったと後から聞いたときは、本当にうれしかったですね」