お金はあればあるだけありがたい――誰もがそう思うのも当然かもしれないが、必ずしもそれで幸せになれるとは限らない。作家の橘玲氏は最新刊『シンプルで合理的な人生設計』で、「お金の効用も逓減する」と説く。いったいどういうことか。橘氏が解説する。
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ビールは最初のひと口がものすごく美味しくて、杯を重ねるほどに美味しさが減り、ついには惰性で飲むようになります。ビールに限らず、どんなに楽しいこともいずれは慣れてしまう――これを経済学の用語で「限界効用の逓減(すこしずつ減っていくこと)」といいます。お金も同じで、無限の富を持てば無限の幸福が手に入るわけではありません。
収入も限界効用が逓減して、アメリカの研究では年収7万5000ドル(約900万円)、日本の大学の調査では年収800万円を超えると、幸福度はほとんど上がらないとされています。夫婦と子どものいる世帯では年間収入1500万円程度になりますが、これはお金のことを(さほど)気にせず、「世間一般で幸福とされている暮らし」ができる金額だと考えればいいでしょう。これを超えると、家族旅行を国内のキャンプからハワイにしたり、恋人との食事を近所のしゃれたビストロからミシュランの星付きレストランにしても、たいして幸福度は上がらないのです。
資産も同様で、日本では、持ち家とは別に1億円の金融資産があると、それ以上貯蓄が増えても幸福度は上がらないとされています。「老後を安心して過ごすには2000万円の金融資産が必要」という金融庁の報告書が炎上しましたが、1億円あれば、今後、日本経済になにが起きても、自分と家族の最低限の生活は維持できると思えるでしょう。逆にいえば、いったんこの「安心の基準」をクリアすると、それ以上資産が増えても幸福度が劇的に上がったりはしないのです。
お金が幸福と結びつく理由
この話を聞いて、「お金の限界効用が逓減するのなら、お金持ちを目指すことに意味はない」と考えるひともいるかもしれません。しかし、これはとんでもない誤解です。ここからわかるのは、「もっとも効果的に幸福になる方法は、お金持ちになること」という身もふたもない事実です。