10年ぶりに日本銀行の総裁が交代し、植田和男・新総裁の下、中央銀行の新たな船出が始まった。だが、課題は山積みだ。
何より黒田東彦・前総裁が掲げた「賃金の上昇を伴う2%の物価安定目標」は10年かけても達成できず、後を継いだ植田新総裁もこの目標について「できるだけ早く達成を目指す」と就任会見で口にしつつ、その時期について明言は避けた。中央銀行のトップが2代にわたって取り組んでも、なかなか達成できないほど至難の業なのである。
物価高が進む一方で、確かに賃上げの機運は高まっている。最大40%アップのユニクロを展開するファーストリテイリングや、平均約7%の賃上げを表明したサントリーホールディングスをはじめ、今春闘では満額回答が相次ぎ、連合の第1回集計でも平均3.8%アップとインフレ率に遅れをとらない水準に映る。
しかし、「それはあくまで大企業の話」だと、経済ジャーナリストの須田慎一郎氏が指摘する。
「『中小企業でも約6割が賃上げ予定』などと報じられていますが、そうした集計にも含まれない中小零細企業がどれほどあるか。
何しろアフターコロナに向けて経済活動が再開しているとはいえ、ホテルの稼働率がコロナ前に戻っていないところや、飲食店でも全席を稼働できていないところもあります。それは深刻な人手不足が要因です。コロナ禍で従業員やスタッフを減らし、需要の回復に伴って人手を集めようにもなかなか集まらない。そこで人件費を上げてなんとか集めようとしても、今度は収益を圧迫しかねず、厳しい局面にある。
ただでさえ、中小零細企業は原材料高騰に苦しんでいるうえ、人手不足を解消しようにも人件費も上昇していて、利益率も上がらない。そうした“三重苦”に見舞われるなか、ここにきて、コロナ禍で広がった実質無利子・無担保の『ゼロゼロ融資』の返済が重くのしかかっています」
潜在的な倒産リスクのある「ゾンビ企業」は3万社超
「ゼロゼロ融資」とは、コロナ禍で売り上げが減った中小企業を支援するために、金融機関に支払う利子を公的機関が3年間負担する仕組みで、返済が焦げ付いた場合は信用保証協会が肩代わりする。2020年3月から始まり、2022年9月末までの融資実績は42兆円にものぼるとされる。
そうしたコロナ支援策で、倒産件数は歴史的な低水準となり、帝国データバンクのまとめでは、2021年度の企業倒産件数は5916件と前年度より2割近く減り、約半世紀ぶりに6000件を割り込んだ。
ところが、それだけ下支えしてきたにもかかわらず、長引くコロナ禍に「物価高」「円安」などが重なり、倒産件数は再び増加。2022年度は前年度より883件多い6799件となり、今年3月だけで800件も発生している。