イトーヨーカ堂創業者のセブン&アイ・ホールディングス伊藤雅俊・名誉会長が98歳で死去した。「伊藤氏はユニークな面白い経営者だった」と語るのは経営コンサルタントの大前研一氏。伊藤氏はどういった経営者だったのか、大前氏が振り返る。
* * *
流通大手「セブン&アイ・ホールディングス(HD)」がもがいている。
同社は業績が低迷している傘下の総合スーパー「イトーヨーカ堂」の店舗を新たに14店閉鎖し、祖業のアパレル事業(1920年に浅草で開業した洋品店「羊華堂」がルーツ)からも撤退すると発表した。3月末時点で126店を展開しているイトーヨーカ堂は2026年2月末までに計33店を閉め、首都圏を中心とした93店に縮小する。
すでに百貨店「そごう・西武」は(迷走中だが)売却を決定し、今後は主力のコンビニエンスストア「セブン-イレブン」を核に「食」を中心としたグループ戦略に転換していく方針だ。
しかし、“物言う株主”として知られる米投資ファンド「バリューアクト・キャピタル」は、コンビニ以外のグループからの切り離しと井阪隆一社長ら取締役4人の退任を求めている。
そういう状況の中、創業者の伊藤雅俊名誉会長が98歳で死去した。伊藤氏は“健全経営の鑑”のような人だった。「心の経営」「信頼と誠実」「顧客中心主義」の商人道を貫いた。
伊藤氏はユニークな面白い経営者だったので、私は自宅が同社の近所だったこともあって、よく会いに行った。いつも伊藤氏はイトーヨーカ堂とアメリカのウォルマートを比較したバランスシート(貸借対照表)を持ってきて「大前さん見てくれ。うちはウォルマートよりこんなに劣っている。だから、こういうことをやらなきゃいけないんだ」と自説を開陳する一方、必ず私の意見や提案を大学ノートに細かくメモしていた。あんなメモ魔の経営者は、私が知る限り、伊藤氏と「ユニ・チャーム」創業者の高原慶一朗氏だけである。