生産者への感謝や食料意識への関心が高まる
家庭菜園を通じて得られるのは収穫物だけではない。
「物価が高騰する一方、野菜の値段はそれほど大きく上がることはありません。根底には“野菜は安くて当たり前”との消費者の意識があり、小売店が高い価格をつけられないという事情があります。一方で燃料費や人件費、輸送費などのコストは上がっているので、生産者の利益が圧迫されています。
家庭菜園を実践することで野菜を育てる難しさを実感し、『いまの野菜は安すぎる』『生産者を育てるためもっと高くてもいいのでは』との意識が芽生え、生産者への感謝や、食料危機への関心が高まる人は非常に多いです」(宮崎さん)
食料危機への対応を訴える東京大学教授で農業経済学者の鈴木宣弘さんは、「家庭菜園をきっかけに消費者と生産者の垣根をなくしてほしい」と指摘する。
「家庭菜園や市民農園などによって、日本中の消費者が自分で作って食べるという仕組みが出来上がれば、安心・安全な食料を確保でき、食料危機に耐えられる国をつくることができる。私は現在の家庭菜園ブームが、食の自給自足を促すきっかけとなることを期待しています。
また、危機を回避するためには野菜だけでなく、エネルギー源となる穀物を消費者が自分で作ることが望ましい。例えば『お米の楽校』という制度は農家が田んぼを区切って生徒を募り、1区画につき年間10万円ほど支払うことで、区画内で米ができるまで農家に指導してもらえます。こうした制度がもっと広がることも期待したい」
千里の道も一歩から。まずは自分のできる範囲で、楽しんで始められることから手をつけよう。杉浦は語る。
「虫に食われてしまうなど、家庭菜園には失敗もあります。だけど、失敗からも多くのことを学べます。それに自分で育てた野菜が食卓に並ぶのはシンプルにうれしいし、楽しいものです。まずはリボベジやプランターから始めて、そこから興味が広がれば、日々のライフスタイルに新しい花が咲くんじゃないでしょうか」(杉浦)
もうすぐ風薫る5月。家庭菜園を始めるのに最適の季節がやって来る。
※女性セブン2023年5月4日号