大銀杏・羽織袴は関取衆の特権
ここまで見てきた天国は関取衆のおはなし。
格差の本質はここからだ。給料がもらえるのは十両以上の関取衆だけ。現在日本相撲協会に所属する力士は630人ほど、そのうち関取衆は70人だ。
それ以下の幕下、三段目、序二段、序ノ口に給料はない。そのかわり年に6回の場所ごとに「場所手当」が支給される。幕下が1場所16万5000円だ。6を掛けて年額99万円。三段目は1場所11万円で、年に66万円。序二段は8万8000円なので年に52万8000円。序ノ口は7万7000円で、年に46万2000円の支給となる。
「それでも部屋に属しているので衣食住の心配はない。浴衣は親方からもらえる。ただ、部屋によっては彼らのわずかな収入から管理費の名目で数万円を徴収する場合もあり、小遣いを実家からの仕送りに頼る者も少なくない」(スポーツジャーナリスト・鵜飼克郎氏)
違いはお金だけではない。マゲも本場所で大銀杏を結えるのは関取衆だけ。幕下以下は髪を束ねただけのちょんまげだ。紋付の羽織袴を着用できるのも関取衆の特権。序二段、序ノ口は冬でも浴衣1枚で過ごす。
「雨の日の傘も違う。関取は番傘を差せるが幕下以下はビニール傘。土俵周りでは、幕内は自分の四股名が書かれた専用の座布団だけど、十両は協会の用意した座布団、その下は座布団がなく薄い板の上」(同前)
さらに幕下以下は関取衆の付け人をやる。昨日まで関取でも、幕下に落ちたら再び付け人だ。トイレの後、兄弟子のお尻を拭かされる付け人もかつてはいたという。
「でもべつにいじめたいわけじゃない。いい思いをしたければとにかく頑張って関取になれという愛のムチなんですよ」(同前)
「土俵には金が埋まっている」という言葉もある。辛い時代を乗り越えて番付が上がっていけば、いい思いができると信じて、今日も力士たちは稽古に励んでいる。
※『マネー格差の天国と地獄』(ニューノーマル研究会編・小学館)を元に構成