実は2023年は「相続税」に関するルールが激変する1年。特に大きな変更点は、この4月1日以降に発生する相続は「特別受益」と「寄与分」を主張できる期間が、相続開始から10年に限定されたことだ。円満相続税理士法人代表の橘慶太さんが説明する。
「特別受益とは、生前贈与を“相続財産の先渡し”と考え、贈与された分も相続財産に加えて遺産分割するもの。寄与分とは、相続人が被相続人の介護などをした場合、その分のお金を受け取ることができるもの。
これまでは、どれだけ時間が経っても、これらを考慮した遺産分割協議をすることができましたが、この4月からは、相続開始から10年経つと、特別受益は相続財産に含まれず、寄与分もなかったことになり、原則として法定相続分で遺産が分割されることになります」
つまり、生前の父から誰か1人が多額の贈与を受けていたことを不平等だと主張しても、姑の介護を一手に引き受けたことで得られたはずの財産があっても、10年経てば“なかったこと”になってしまう。
また、来年4月1日からは、相続した不動産の登記が義務化される。平均寿命で考えると、女性は男性よりも6年は長生きする。夫の財産を相続する可能性が高い妻は、刻一刻と変化するルールを把握し、いまのうちに、夫より先に準備しておくべきなのだ。そこで、夫に先立たれた時を想定し、相続のために妻がやっておくべきことを解説する、
まずは夫の財産を知る
「先手必勝」で進めるには、まず、夫の財産がどれくらいあるのか把握しておきたい。老後、頼りになるのは、やはり夫が亡くなった後の遺族年金。いざというとき一体いくら受け取れるのかを知っておくことで、生活のシミュレーションができる。これは、年金事務所に問い合わせるのが確実。もしくは、毎年誕生月に送られてくる「ねんきん定期便」をチェックすれば、おおよその金額がわかる。
だが、夫の財産は貯蓄や年金だけではない。相続・終活コンサルタントの明石久美さんが言う。
「一緒に暮らす妻でも見落としてしまう財産は、意外と多いものです。例えば、夫が会社で加入している生命保険。定年前なら会社から通知が届きますが、定年後は自己管理になることがほとんど。“保険金の受取人が誰になっているか”も含めて、確認しておきましょう。
また、ネット銀行やネット証券は封書が届かないので、同じく見落としがち。同様に、取引がすべてインターネット上で完結する暗号資産や電子マネーも確認すべきです。そして、子供名義の預金がないかどうかも確認を。子供本人がその存在を知らないままだと、それは夫の財産であり“名義預金”。相続財産に含まれ、課税対象になります」