防衛予算の増額などに伴い、その財源や増税に関する議論が続いている。そうしたなか、「日本が財政破綻することはない。また、増税の必要もない」と明言するのは、評論家の中野剛志氏だ。3月に緊急出版した『どうする財源――貨幣論で読み解く税と財政の仕組み』(祥伝社新書)が話題を呼ぶ中、その真意を語った。
――なぜ今、税や財政の問題を根本から問い直そうと考えたのでしょうか。
中野:昨年末、政府は防衛力を強化するため、2023年度から5年間の防衛費をおよそ1.6倍の43兆円とする方針を決めました。これにより、日本の防衛費は、海上保安庁や国防にも役立つインフラ予算を含めれば、国内総生産(GDP)の2%と、北大西洋条約機構(NATO)の加盟国が目指す水準に並ぶことになります。
ただ、2027年度以降も防衛力を安定的に維持するには、毎年4兆円の追加財源が必要になります。政府は、この財源について4分の3は歳出改革、決算剰余金の活用、税外収入を活用した防衛力強化資金の創設といった工夫により捻出できるとしました。しかし、残りの1兆円については、増税によって賄うものとしました。
この増税について、自由民主党内での調整の過程では賛否両論が巻き起こりましたが、結局、昨年末に閣議決定(令和5年度税制改正大綱)に至りました。ただし、増税の実施時期については、「令和6年以降の適切な時期とする」とされました。実施時期は未定とはいえ、増税を実行することを決めたのです。
これに対して、国内で大きな議論が巻き起こりましたが、まず歳出改革を行なうべきだという見解は、共通しているようです。争点は、足らざる部分を国債発行によるか、増税によるかになります。
世論調査では、増税も国債の発行も賛成は少ないようです。政府の有識者会議は、増税を提言し、国債発行を否定しました。自民党内は、増税と国債発行とで意見が割れたように思われます。他方、野党は増税反対で共通しているようです。経済学者や経済アナリストは、多くが、防衛費の拡充に反対でなければ、増税を支持し、国債発行には否定的だったという印象です。
これらの議論を通じて私が問題だと思うのは、政治家だけでなく経済学者ですら、財政や貨幣について間違った理解をしている人が多いことです。そこで、年末年始の休みに一気に書き上げてしまったのが、新刊『どうする財源』です。家族をどこにも連れて行かなかったので、妻からは文句を言われましたが(笑)。