政府が導入を目論んでいる「75歳年金受給開始」。しかし平均的な健康寿命(男性・71.1歳、女性・75.5歳)を考えると、年金をもらえるころにはあまりお金を楽しく使える体力は残っていない可能性も高い。ならば、せめて75歳から受け取る年金を家族にしっかり残したい。しかし、そんな望みさえ叶えられないかもしれない。
「75歳年金支給」の議論の舞台となっている有識者会議(内閣府)の清家篤座長は、2013年に安倍首相直属の「社会保障制度改革国民会議」会長として年金や医療、介護など社会保障政策の基本方針をまとめた人物だ。
この国民会議で財政学者の伊藤元重・東大名誉教授は巨額の高齢者医療費を賄う財源として「死亡消費税」という考え方を提案した。
〈60歳で定年されて85歳で亡くなった間に一生懸命消費して日本の景気に貢献してくださった方は消費税を払ってお亡くなりになる。60~85歳の間消費を抑え、お金をお使いにならないでため込んだ方は消費税を払わないでお亡くなりになる。しかもそれが相当な金額にならない限りは、遺産相続税の対象にはならない。
ですから、生前にお払いにならなかった消費税を少しいただくという意味も込めて、死亡時の遺産に消費税的な税金をかけるという考え方がありえます〉
年金の「三重苦」
伊藤提案は国民会議の最終報告書には盛り込まれなかったものの、清家氏は現在、安倍政権の高齢者対策大綱とりまとめの責任者の地位にあり、財政再建論者として知られる伊藤氏も東日本大震災からの復興事業について政府に提言する「復興委員会委員長」として政権に強い発言力を持つ。
それだけに、安倍政権の高齢者対策大綱で年金の「75歳受給」が提言されれば、年金以上に財政負担が重くなっている後期高齢者医療費の財源として「死亡消費税」構想が浮上する可能性は十分ある。