渋谷の豪邸は「法人名義」に
安倍家の最大の資産といえば、安倍氏の私邸で現在も昭恵夫人が生活している東京・渋谷区の高級住宅地の豪邸だろう。1140平米の敷地に建つ地上3階、地下1階のマンション形式の建物(延床面積1938平米)で、「資産価値20億円」ともいわれるが、母・洋子さんと兄・寛信氏の所有で安倍氏の持ち分はなかった。そのため、今回の相続対象の財産ではない。
ところが、安倍氏の相続にタイミングを合わせたようにこの豪邸の所有権の変更が行なわれていた。
安倍家のマンションは「自宅棟」と他の住人に貸している「賃貸棟」がつながった建物で、入り口は分かれている。自宅棟の1階が寛信氏一家の居宅(現在は転居)、2階に安倍夫妻が住み、2階と内階段でつながった3階に母・洋子さんが生活していた。
所有権は、土地は洋子さんと寛信氏が共同所有、自宅棟の1階は寛信氏、自宅棟の2~3階と賃貸棟は洋子さんの所有だった。
登記簿謄本によると、まず安倍氏の存命中の令和3年9月に寛信氏が持つ自宅棟1階の部屋と、洋子さんが持つ賃貸棟が「ABコミュニケーション」という会社に売却されていた。
さらに今年4月19日付で、マンションの敷地の洋子さんの持ち分と、昭恵氏が住む自宅棟2~3階部分の所有権が寛信氏に移転され、洋子さんから寛信氏への「信託」となっている。
「ABコミュニケーション」とは一体、どんな会社なのか。会社謄本を調べると、代表は寛信氏で、住所は寛信氏の自宅がある港区のマンションの別の部屋に置かれていた。会社の目的は「不動産の賃貸、管理、売買及び仲介」となっており、寛信氏の事実上の資産管理会社であることがわかる。
つまり、安倍家の渋谷の豪邸は、土地と建物の全ての権利が寛信氏とその資産管理会社に移されていたのだ。
相続に詳しい北村真一・弁護士に登記変更の意味を読み解いてもらった。
「『信託』とは簡単に言えば、所有権を移さずに、所有者ができることをほぼ全て受託者が行なえるようにする契約です。
謄本では、母が所有していた賃貸棟の建物は長男の資産管理会社に売却され、土地は長男に信託された。母と子の共有不動産のうち、母の持ち分を子に信託するというケースはあまり見ません。考えられることとして、一つは相続対策。親と共有の土地を子に信託することで、高齢の親の判断能力が衰えた場合でも、その土地を子が自身の判断で運用や処分ができるようにしたということです」
寛信氏は将来的に安倍家のマンションの私邸部分まで、賃貸などで運用することを視野に入れて信託の手続きをした可能性がある。
だとすれば、昭恵氏はいずれ渋谷の安倍邸を出なければならなくなることも考えられる。
本誌は寛信氏が自宅マンションから出てきたところを直撃したが、回答を得られなかった。
※週刊ポスト2023年5月26日号