大日本印刷は過去最大の自社株買い
そうしたなか、東証の改善要請を前にいち早く動き出した企業もある。
「東証の要請方針が1月下旬に掲げられると、大日本印刷は2月の経営基本方針のなかで資本効率改善のために過去最大の自社株買いを表明し、『PBR1倍超の早期実現』を明言しました。シチズン時計も2月の決算発表に合わせて発行済み株式の25%余りにあたる7500万株まで自社株買いを行なうと発表。両者とも、発表後は株価が急騰し、PBRも1倍前後まで上昇しました」(同前)
企業がPBR1倍割れを解消するには、「株価を上げる」か「1株あたり純資産を減らす」必要がある。前者は容易なことではないが、後者は(市場に出回る株式数を減らす)自社株買いにより実現できる。
大日本印刷やシチズン時計のような自社株買いや、増配などの株主還元を発表する企業はその後も増えている。そうした取り組みは株価上昇に繋がりやすく、投資家の興味を引く好材料になっている。
前出・岡山氏が言う。
「実際に2月以降はPBR1倍割れ銘柄が買われ始めました。東証の方針を投資のチャンスと捉えたのは海外投資家も同様です。米国の著名投資家ウォーレン・バフェット氏は4月の来日時に日本株に強気な見方を強調しました。競争力のある優良銘柄を割安価格で買う投資手法で知られるバフェット氏は、かねて日本のPBR1倍割れの優良企業に注目しており、2020年8月までに伊藤忠商事、丸紅、三菱商事などの5大商社に投資して大きな利益を手にしています」
東証の改善要請を投資チャンスと捉えている投資家は、少なくないようだ。
※週刊ポスト2023年5月26日号