子や孫に少しでも財産を残したい──そう思って人生の最後まで必死にお金を貯め続けたとしても、その財産こそが子供や孫を困らせる原因になる可能性もある。
財産総額が「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」を超えるほど大きければ相続税が課せられる一方で、財産が少なければ、遺産分割をめぐって遺族同士が争う“争続”につながるケースが多い。額の大小にかかわらず財産を残すことが必ずしも子供のためになるわけではないのだ。
確実に子供や孫に残したいお金がある場合、争いを避けるためには年間110万円までなら贈与税がかからない「暦年贈与」や、1000万円までの「結婚・子育て資金の一括贈与」、1500万円までの「教育資金の一括贈与」などで対策することができる。家計再生コンサルタントの横山光昭さんが言う。
「もし使い道に迷っているなら、不動産を買ったり自宅をリフォームしたり、生活環境を整えるためにお金を使うのもいい。中には老後のために300万円ほどかけてインプラント治療を受けたかたもいます」(横山さん)
お金を残すのではなく、使い切って死ぬ。相続や住居、健康など、自分や家族の暮らしをよりよくするためにお金を使うなら、後悔するはずもないだろう。
人生の最後に“素敵な物語”を
お金を使ってチャレンジしたいことや実現したい理想、助けたい存在がすぐに思い浮かばなければ、まずはそれまで生活を切り詰め、コツコツ貯蓄に励んできた「あなた自身」を喜ばせることから始めてみてほしい。日々の食べ物やお酒、日用品をちょっとだけグレードアップする“プチ贅沢”でも充分だ。幸福学研究者の前野マドカさんが言う。
「例えば、頑張った日に自分へのご褒美に少しいいものを買ったり、食べたりするのは立派な必要経費です。自分に感謝するのは意外と難しい。目に見える形でご褒美を買うことで、幸福度は高まるでしょう。緑が目に入ると幸福度が上がることがわかっているので、自宅や仕事場に観葉植物などを置くのもいいですね」(前野さん)
日々の生活の中に幸せを見いだし、気持ちにゆとりが生まれれば、その後の人生も変わるはずだ。自分のために、周囲のために、少しずつお金を減らしてまっさらの状態で最期を迎えることができれば、これ以上に気持ちのいいことはないだろう。