中川淳一郎のビールと仕事がある幸せ

上司から部下へ「メシでも食うか」の誘いは令和ではタブーなのか? ビジネス面での効能は大きい

「お前らに頼らざるを得なかった」

 私自身も「メシでも行くか」の恩恵は散々受けていきました。実際は飲みでしたが、会社員だった4年間、そのうち一つの部署では週に4回飲みに行っていました。今思うと不思議だったのですが、この部署はメンバーが若手しかいないという珍しい組織で、かつ呑兵衛が揃っていました。そして、毎晩21時ぐらいまで残業をしていたのですが、「そろそろ行きますかね」と誰かが言い出し、そして「あと15分!」などとなって、朝の3時ぐらいまで飲むのです。

 我々の部署はそこそこ売り上げも立っていましたし、あれから25年経った今でも当時のメンバーで飲んだりするほど仲が良いです。

 10年ほど後、「なんであんなにオレ達を飲みに誘ってくれたのですか?」と当時のチームリーダーに聞いたら、こう言いました。

「いやぁ、オレってさ、あの時一番若いチームリーダーだったじゃん。他チームを率いる先輩たちに統率力とか実績で負けていたから、お前らに頼らざるを得なかったんだよ。だから、なんとかしてお前らと良好な関係を作りたかった。飲むぐらいしかできなかったけどね……。今となってはそれでよかったと思う」

 こうした効果も「メシでも食うか?」はあるのです。冒頭に登場した会計士のA氏は、幸いなことにメシのお陰で部下と良好な関係を築けているようです。決算時期を乗り切ったA氏はこれからも「メシでも食うか」は続けると語っていました。

【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は『捨て去る技術 40代からのセミリタイア』(インターナショナル新書)。

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