政府が創設した「大学10兆円ファンド」の支援対象となる「国際卓越研究大学」には、東京大学や京都大学、東北大学、早稲田大学など10校が申請した。今秋ごろまでに数校を選び、来年度の助成開始を目指すという。同ファンドは「世界に伍する研究大学の実現に向け、必要となる支援を長期的・安定的に行うための財源を確保すること」が目的だが、経営コンサルタントの大前研一氏は「10兆円をドブに捨てることになる」と断じる。大学10兆円ファンドの問題点とは何か、大前氏が解説する。
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政府はファンドの支援によって「世界トップクラスの研究者」の獲得を目指すそうだが、それは無理だ。海外から見て日本に魅力的な大学はない。
たとえば、イギリスの教育専門誌『タイムズ・ハイヤー・エデュケーション』の「2023年版世界大学ランキング」で100位以内に入っているのは、東大(39位)と京大(68位)だけで、この2校もアジアでは中国の清華大学(16位)や北京大学(17位)、シンガポール国立大学(19位)、香港大学(31位)、シンガポール南洋工科大学(36位)の後塵を拝している。
私は同ランキング5位のMIT(マサチューセッツ工科大学)で博士号を取得し、ボードメンバー(社外取締役)を5年務めた。また、3位のスタンフォード大学や、21位のUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)でも教鞭を執ったが、どこも人気教授を競って採用していた。一方、日本の大学はレベルが低いだけでなく、世界的に有名な教授もほとんどいない。だから海外の優秀な若者は日本の大学を選ばない。
かてて加えて、日本の大学には“日本語の壁”がある。日本語を学ぶだけで1~2年かかるから、中国人も台湾人も韓国人も、いまや日本をスルーしてアメリカやカナダ、イギリス、オーストラリアなど英語圏の大学に行く。
たとえば、フィンランドの大学はすべての授業を英語にしたため、EU中から学生が集まるようになった。日本の大学も英語で授業を行なわない限り、世界トップクラスの研究者や留学生が来ることはなく、最優秀の人材が集まらなければ、最先端の研究をできるわけがないのだ。
さらに、「スタートアップの創成基盤」を作ることも目的の1つに挙げられているが、それを日本の大学に期待するのは100%間違っている。今まで大学発ベンチャーで成功した例は極めて少ないし、インキュベーター(起業支援)やアクセラレーター(スタートアップ支援)なら大学別にする必要はない。有望なビジネスの卵であれば自ずとベンチャーキャピタルが集まってくるからで、国はそのためのステージとクラウドファンディングの仕掛けを用意すればよいのである。