今やるべきは「一条校」の廃止
「大学ファンド10兆円」制度を考案した文部科学省の役人は、そうした世界の大学の実態も起業の現実も全く知らないのだ。というわけで、私の結論は「10兆円をドブに捨てることになるからやめておけ」である。
それよりもやるべきは、文科省教育の抜本的なオーバーホールだ。今の文科省教育に欠けている視点は「どういう人間を育てるのか」ということである。私は「21世紀を生きていける社会人をつくること」が義務教育の責任であると定義し、義務教育を高校まで延長した上で、大人(18歳)として必要十分な「知恵」を授けるべきだと思う。
そのためには「一条校」を廃止しなければならない。一条校とは文科省の学習指導要領に従って教えている学校で、そこに文科省は補助金を出している。しかし、チャットGPTなどの生成AIが登場し、10~20年後にAIの能力が人間の能力を超える「シンギュラリティ」が到来するとされている時代に、知識偏重でネット検索すればすぐにわかることばかり教えさせる学習指導要領は全く意味がない。そもそも文科省が“指導要領”を作成できると考えること自体が時代錯誤だ。
したがって、学習指導要領も一条校という概念もなくし、21世紀を生きていける社会人をつくるための新しい教育プログラムの構築を、国公立も私立も関係なく、すべての学校に10年くらい競い合わせ、その中から良い成果を上げたところを中核とした新たな雛形を生み出すべきなのである。
文科省や一条校に任せていたら、決して世界に通用する優秀な人材を育成することはできないのだ。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『第4の波』(小学館)など著書多数。
※週刊ポスト2023年6月2日号