「どうすればできるだけ安く、できればタダにできるのかを考えるのが好き」と語る原田さんは、お金にまつわる小説を数多く手がけていることもあり、節約術を紹介する主婦雑誌をよく手に取るという。
「少し前までは“年収200万円台で住宅ローンを返しながら子育てしている”という家庭がたくさん登場していました。でも、その傾向は10年くらい前から変わってきたと感じています。“やっぱり1000万円貯めたい”という趣旨の特集が出てきた。日々のやりくりの先に、大きな目標を掲げる人が増えたのでしょう。そこで、普通の主婦が貯金1000万円を目指すための、お金の使い方を描いた小説を書きたいと思ったんです」
3000円と向き合うことは「自分」と向き合うこと
『三千円の使いかた』の物語は《人は三千円の使い方で人生が決まるよ、と祖母は言った》という書き出しで始まる。
「なぜ3000円にしたか。3000円という額は、その使い方で“自分”がわかる金額だと思うんです。1000円では映画も見られない。5000円では大きすぎて“使わずに貯めておこうかな”となってしまう。3000円は、使い道に選択肢がある一方で、油断するとすぐに使い切ってしまう、絶妙な金額です」
主人公の美帆はお金の使い方を学ぶための資金にしたが、3000円という額に向き合う時間こそ、豊かな人生への第一歩なのだ。
映画を見るのか、本を買ってカフェで読むのか、友達とランチに行くのか、推し活に使うのか、はたまた、お米を買うのか──自分がいま何に重きを置いて、どんな目標を持っているか、今日や明日をどう過ごすかが、3000円の使い方に表れる。
もちろん、時には無意味な使い方をしてしまうこともあるだろう。普段はきっちり家計管理をしている原田さんも、つい衝動買いしてしまうこともあるという。
「調理グッズが好きで“これ1つで蒸し器にもなる”といった多機能の土鍋を見ると、つい買ってしまうんです。年に一度くらいしか使わないのに、うちには土鍋が5、6個あります(笑い)。だけど、家事や仕事のモチベーションになるなら、たまにはこんな“ごほうび遣い”をしたっていい。最近は、ずっと欲しかった冷凍専用庫を思い切って買いました。大きな買い物ですが、作り置きや、業務スーパーやコストコの大容量の食品を入れておけるので気持ちに余裕ができ、余分な食べ物を買わなくなったんです」