そういった退職者を出さないように、Bさんの会社では新人の育て方やコミュニケーションの取り方に特に注意しているという。先輩社員や上司が新人に接する際には細心の注意を払い、パワハラ・セクハラはもちろん、残業や飲み会を減らす、体調不良なら休ませる、仕事はゆっくり教えて育てていくなど待遇の改善も徹底しているという。にもかかわらず、1年もたずに辞める新人が毎年数人は出るのが現実だ。Bさんは「甘やかしすぎでしょうか」と頭を捻る。
一方、令和の新入社員はどう思っているのか。昨年、大手行に入社後半年で退職したCさん(20代男性)が言う。
「配属された部署の人たちと人間関係がうまくいきませんでした。最初は歓迎会にも参加したりして馴染もうとしましたが、仕事中の雑談などに入らないといけないのが嫌で、だんだん部署で気まずい雰囲気になりました。仕事で分からないことがあっても聞きにくくなり、それに伴い先輩のフォローも減り、もうここにいても成長は望めないと感じたので辞めました」
CさんはほどなくIT系の会社に転職。その会社で数年は働いてスキルを身につけるつもりだという。
「ゆるブラック嫌い」という考え方
簡単に辞めていく令和世代と彼らに対する過保護さに疑問を感じる氷河期世代、双方の溝を埋めるにはどのようにすればいいのか。人事ジャーナリストの溝上憲文氏が解説する。
「就職氷河期世代は、深刻な労働人口不足が指摘されるなかでも相変わらず新卒一括採用偏重の日本の雇用慣行のなかで救われることがなかった。自分たちと比べてたくさん内定をもらって辞めていく新人たちに戸惑いながら、彼らを甘いと見る向きもあるでしょう。
ただし、令和世代は将来に対してものすごく不安を抱いており会社員人生を悲観的に見ています。定年まで会社が存続するか分からず、年金や退職金もあてにできないので投資や積み立てをしたり、早くスキルを身につけてステップアップしたいと考える傾向が強い。
『ゆるブラック嫌い』という言葉があるのですが、たとえば大手企業などで長期的な社員教育のためにゆっくり新人を育てようとする姿勢を『ゆるブラック』といって嫌う。また、令和世代はコロナ禍もあり対人関係の構築が苦手でコミュニケーション下手なケースが多く、上司や先輩にあたる氷河期世代を『恐い』と思っている人も少なくありません。そうしたなかで、今の人事の課題は彼らの『不安を取り除く』こと。自然に会社に慣れるように導いて、社会人の自覚を少しずつ促すことが必要です。
ある人事担当の方は『スモールサクセスを積み上げさせることが大切』と言っており、1年目は先輩が指導するにしても2年目からは小さい仕事でもある程度の権限を与えて見守るといった姿勢が必要になる。甘やかしという見方もありますが、『この仕事を積み上げるとスキルが身につくよ』と丁寧に教えていくことが会社側には求められます」
すぐに会社を辞めていく令和世代の若者の考えは理解できない、などと考える前に、まずは彼ら/彼女たちが感じる不安を知ることが大切なようだ。(了)